日常に音楽がある場所

書こうとすると喉の奥がぐっとなる、先週のライヴで感じたこと。

ヒライマサヤさんと森孝允さんの二人組バンド「The Old & Moderns」。
ツアー直前にして急遽キャンセルとなった最終日の会場の代わりに、配信だけでもさせてもらえないかと連絡をもらったことが表している、ライヴをとりまく現状。まず引き受けようと決めて、速攻でやれるやり方を考えた。
展示会の開催中だったのでライヴ営業にすることはできないけれど、どうせなら配信だけじゃなく、ひとりでもふたりでも生でお客さんに観てもらいたいと思って、通常営業の店内で演奏してもらって配信しつつ、たまたま買い物に来られたお客さんとか、来られる方には観に来てもらうのはどうですか、と提案した。
まさか、ツアーに出発する朝に、森さんから「解散」という言葉が出て、これがモダンズのラストツアーになって、通常営業の中で引き受けたライヴがそのファイナルになるなんて、わたしたちはもちろんモダンズのふたりだって、そのときは思ってもいなかった。

ラストツアーのファイナルが、平日の16時からで、通常営業の店内で、いいんだろうか……と申し訳なく感じていた。急に決まったライヴだし、平日の夕方だし、数人観に来てくれて、2〜3曲聴いていってくれたらいいくらいだろうな、と思っていた。

16時よりも前に、ライヴを目指して来てくださったお客さんが3人。それから、ちょっと遅れて続々と。夕方からの店を開ける時間ギリギリまで観ていってくれる人もいれば、仕事が終わって駆けつけてくれる人、子どもを習い事に送ってそのあいだに観てくれる人、途中で仕事を抜け出して少し観てからまた戻ってきてくれる人。入れ代わり立ち代わり、たくさんの人が、ヒマールでの最後のモダンズを観に集まってくれた。
結局、16時から閉店時間の18時を過ぎるまで、2時間以上のものすごいライヴになってしまった。ヒライさんがMCで「これが通常営業ですか!? これがヒマールの通常営業ですか!」と叫んでいた。

こみ上げてくるものが止まらなかったのは、もうこれで、うちの店でふたり揃っての演奏を観ることはないんだ、と思ったこともある。もちろんそれもあるのだけれど。
ヒライさんが店に演奏しに来てくれるようになって、森さんをサポートとして連れてくるようになって、その次にはふたりで「平井正也DUO」と名乗って演奏するようになって、それから「The Old & Moderns」という二人組のバンドになりました!と言って、モダンズは来るたびにどんどんモダンズらしくなってバンドになっていった。その過程を、わたしたち店の者もだけど、最後のライヴに駆けつけてくれたお客さんたちも、ずーっと観てきた。ほとんどの人が、ヒマールで初めてヒライさんたちの演奏を観て好きになった人たちで、それで毎回観に来てくれるようになって、定期的にライヴの回数を重ねてきた。だからこそ、平日の夕方なのに、通常営業なのに、めちゃくちゃ盛り上がったライヴになったんだ。これって、すごいことじゃない!? 9年、店を続けて、こんなふうにライヴをやってきた、その結果だなあ、と思った。やってきてよかった、やっとここまできたなあ、とライヴを観ながらこみ上げてしまったのです。

この1年8ヶ月、ライヴをするということは、ミュージシャンにとっても、ライヴに関わる仕事の人たちにとっても、会場となる店にとっても、すごく難しくて苦しいことになってしまった。
ヒマールでは毎回、ライヴの前に出演者と店の者とで、キットを使って抗原検査をする。抗原検査じゃ十分ではないことはわかっているけど、岩国でPCR検査を受けたら、たとえば今回のモダンズとわたしたちの4人分で10万円以上かかる。いくらなんでもそれは無理だ。ヒライさんは別府市在住なんだけど、廃校になった中学校にPCR検査・抗原検査センターが作られて、いまのところは9月末までらしいが市民は無料でいつでも予約なしでPCR検査を受けられるという。抗原検査なら旅人でも無料で受けられる、と。どうしてこれをすべての自治体でやってくれないのだろう。まともな補償がないことにも腹が立つけど、せめていつでも誰でも受けたいときに無料で、いや、広島県知事が広島市内で無料でやっているPCR検査の費用は1回2,000円くらいと以前に言っていたのを聞いたからそれくらいなら支払ってもいいから、PCR検査を受けられるようにする、それが国がやるべき最低限の対策で補償で支援じゃないのか、と思う。そうなればライヴも、もう少し苦しくなくやれる。
ライヴに対しては「今やらなくても。落ち着いてからやれば」と言われることもある。でも、それはいつになるんだろう。そのときに、好きなあの人は音楽活動を続けられているんだろうか。そのときに、うちの店はまだやれているんだろうか。
なくなってしまったら、もう戻らない。それはちょっと周りを見てみればわかることだ。なくならないようにするには、続けていくしかないんだよ。そうじゃない?
音楽に興味がない人もいるだろうけど、音楽のある場所がなくなるときは、ほかのたのしみがある場所もなくなるときじゃないかと思う。

日常に音楽がある場所になれたらいいな、と思ってた。まだ確信は持てないけど、そういう場所になれつつあるのかも、と感じられたのが先週のライヴだった。それくらい感じられるようになるまで、9年かかった。
不確かな世界でなくなってしまわないように、細々とでも続けて守っていきたい。それがいま自分たちにできることで、仕事で、役割だと思っている。

ぼくたち、オールド・アンド、モダーーーーーンズ!
本当にすごいバンドでした!
素晴らしいライヴをたくさん届けてくれてありがとう!!!!!

撮影はすべて長束晃さんです。
いつもありがとう。

日常に音楽がある場所」への1件のフィードバック

  1. うのっち

    音楽は個々の人生の宝ですね。
    芸術に国宝も場末も大差ないと思います。

    自分の好きな人好きな物すきな事を大切にしたいですねー!

    はるか昔から、自然と共に暮らす庶民の心を慰め、力をあたえてきたのは
    自分たちの口や身体から出る音楽であったと、思われてなりません。

    様々な土台をもち、考えの違う人々の心に
    共通に届く数少ないツールとして
    今までずっと残っているんでしょうね。

    「どん底」もその一端を担っているのです!
    あー、次が楽しみだー!

    返信

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