Yumiko's

松井ゆみ子がアイルランドからお届けする「食」と「音楽」のこと

この画面は、簡易表示です

essay

エッセイ「アイルランドの発酵食品」by Yumiko

 この数年、アイルランドは空前の発酵食品ブームです。
 5年ほど前だったでしょうか、スライゴーに住む夫の従姉妹から「麹を買いたいのだけど」と相談されました。味噌作りのワークショップを行なうのが目的で、へー!と驚きながらお手伝い。彼女は独自の食事療法をしていて大豆が食べられないので、何で作るのだろうと思ったら、くるみ。北西部は特に寒いエリアで、家の中でもセーターを着込むほどなので、ちゃんと発酵するのかしら??と心配でしたけど、彼女たちの意欲を削ぎたくないので、お探ししました。強く要望された、乾燥タイプのオーガニック玄米麹。
 とても幸いなことに、オーガニックの乾燥麹を作っている会社とコンタクトがとれ、とても親切に応対してくれただけでなく、その会社はわたしが愛用しているイギリスのオーガニック食品会社にお味噌を卸していたことを教えてくださり、びっくり!
 いつも食べていた白味噌で、日本のものよりさらに甘みがあって、サラダドレッシングやソースに最適と思っていたら、そう使われるだろうことを想定して日本で売っているものより甘めにしているのだと教えていただきました。さすが!

 アイルランドは、発酵食品に関して遅ればせなとこがあるのですが、それは環境によるものなんです。ヨーロッパ北部に位置しながら、北欧やドイツのような過酷な北国環境にならなかったのは、すぐ近くを流れている暖流のおかげ。冬でも零下になる日は少なく、食材を保存するのにちょうどいい気温が通年続くからです。牧畜がさかんなのも、牧草が冬枯れしないのが大きな理由。
 アイルランドはEU内でトップクラスの酪農王国。それでも、チーズづくりに乗り出すのはとても遅かったのです。それは良質なバターを保存するのに適した気温を保つことができたから。EUの一員になった頃から、この国のチーズ産業は急成長し、今やチーズ先進国のフランスの品評会でトップクラスの評価を得ています。

 乳製発酵食品の代表的なものは、バターミルク。日本でも入手が可能になってきたようですね。牛乳の上澄みで、バターのもとになるクリームを取り除いた後の、水っぽい上澄みがバターミルク。これをわれわれは小麦全粒粉にまぜてパンを作ります。
 ヨーグルトを水で薄めたくらいの “威力” で、小麦粉を膨らませてくれます。かつては飲みものとしても活用されていたそう。

 新たなブームが、キムチ。すでに自国産でコマーシャルに生産されているものもあるほど浸透してきています。でもね〜ほとんどが、酸っぱいキャベツ。ドイツのザワークラウドのピリ辛版。辛いの苦手なアイリッシュが多いので、辛味もパンチがないケース多発。
 知り合いの韓国人シェフにご意見うかがったら、顔をしかめて静かに首をふるのでした。でもね、まだまだ始まったばかりの食文化革命ですから、今後が楽しみ。この間食べたサンドウィッチの中にキムチもいて、いい仕事していたの。

 ケフィアも大きく成長している食品のひとつ。

 Kombuchaがよくわからない(苦笑)。
 要は、日本でも数十年前に流行った紅茶キノコで、これがバカウケ。スーパーやコンビニでも買えます、コンブチャ。わたくしたちの知る昆布茶とはまったく異なるものですが。
 ゆっくり教えるんだ、ほんとの「こぶ茶」。

 まだまだ、迷走中のアイルランドの発酵食品事情です。
 納豆が辿り着くのはいつだろう??

 アイルランドの最もポピュラーな発酵食品はビールです!きっぱり(笑)。

 ブログにコメントをくださった“つながる”さんのご質問で、アイルランドの発酵食材事情を書いてみました。わたし自身、アイルランドではまだ新しいエリアで勉強中です。
 そもそも発酵には向かない環境のアイルランドで、発酵食品ができるようになったのは、地球温暖化の影響あるからでは?と思わざるを得ません。
 東京の実家で、かつてわたしは「ぬか床」の当番でした。“ぬか子”とよんで、日々の世話を楽しんでいたので、冬の野菜の漬かり方の遅さはよく知っていましたから、アイルランドでは無理と思っていたのです。
 セントラルヒーティングが当たり前になってきて、家の中でツイードのジャケット着ていたり、アランセーター着ないとすごせない家は減りましたので、発酵に向く環境は以前よりぐっと増えたと思います。
 米ぬかでなく、パンをさらに発酵させてぬかがわりにしたり、海外生活の長い方たちは、脱帽の努力をされているようで、わたしはまだまだ新参者。

 野菜の味噌漬けは何度か実験。味噌プラスアイリッシュウィスキーに漬け込んだ、にんじんと生姜は、かなり絶品。

 宿題は、水キムチとぬか漬け、いずれお味噌づくりまでいければ人生に悔いなし!

うちで愛用しているお味噌。どれも日本産で、麦味噌、玄米味噌、八丁味噌も。白味噌以外は別のメーカー。クリアスプリングはイギリスの大手オーガニック食材会社で、お蕎麦やおうどん、お豆腐などを常時購入しています。助かる〜。
キルケニーのグルメ食材屋さんで作ってもらったバゲットサンドには、パストラミにキムチが合わせてありました。見えませんね(苦笑)。キムチは南部の食の町コークで作られているアイルランド国産品。ピリ辛度がたかくておいしかったです。チーズにも合うのね。


エッセイ「ホットドッグ」by Yumiko

 どちらかといえばアイルランドでは、ホットドッグよりもハンバーガーの方が人気が高いような印象です。レストランのメニューにハンバーガーはあっても、ホットドッグはまず見かけません。アメリカのホットドッグ専門店のチェーンはそこそこ人気ですが、どの町にもあるわけではないし。チッパーとよばれるフィッシュ&チップスの店などで買えますが、ソーセージをはさんだだけの素っ気ないものばかり。

 ダブリン郊外ダンレアリのファーマーズマーケットのロイのホットドッグ屋さんは、いつも行列の人気店。炒めたたまねぎとパプリカをたっぷりのせてくれる数少ない例外です。大きすぎてちょっと食べづらいので、わたしはいつもミニサイズのキッズ版を買っていました。それでも大きい。夏の定番行事、各家庭でのバーベキューでも、ソーセージはみんな大好きですが、パンにはさむのはバーガーだけで、ソーセージはそのままかぶりつくのがお決まり。

 わたしは断然ホットドッグ派。初めてアメリカに行ったときは毎日食べてました。どこかの美術館の庭だったか公園だったか、屋台で買ったら30センチくらいあって驚愕。それも中身はソーセージだけでしたっけ。でもあれに他の具材が入ったら食べきれなかったな。

 アイルランドにまだ “通って” いた頃、毎回出立の日の朝、健在だった母がホットドッグを作って持たせてくれていました。ひとりっこのスポイル度全開。いつからそんな風に “恒例化” したかは忘れてしまいましたけど、バターロールに炒めたキャベツと普通サイズのソーセージを入れた特製ホットドッグ。生まれ育った実家は東京・西荻窪にあり、グルメ度の高いエリアなので、パンもソーセージもトップクラスで、おいしかったな〜。
 小ぶりだったので、いつも4個はバッグに詰め込んで、1〜2個はマークにとっておいたりもして。燻煙の強いソーセージだったし、よく火を通してくれてたし。

 母が亡くなった後、2年ぶりにアイルランドへ出かける日。母のいない日々には少しずつ馴れていっていたのですが、アイルランドへ向かう道中に母のホットドッグがないことに気づいた瞬間、大きな喪失感でいっぱいになりました。

 いま住んでいるクリフォニーのヴィレッジにあるコンビニエンスストアで、レストランにだけ卸している精肉業者の肉が買えるのです。小売はしていない業者なのですが、近所のよしみでほぼ毎日、数パックだけ配達しているので、お肉はいつも新鮮。鶏肉の扱いはなく、牛肉が中心ですが、ときどきラムやポーク、そこそこ厚切りのベーコンも。そしてたま〜に買えるのがソーセージ。思わず買っちゃったのでホットドッグを作りました。
 キャベツとたまねぎのソテーをたっぷり入れて。フランクフルト・ソーセージ級の大きさで、焼くのに少し難儀しましたけど、や〜、ジューシーでおいしかった!

 アイルランドのソーセージの多くは燻煙していない生ソーセージで、焼くよりも煮込みにした方が調理がラクなんですけど、やはりフライパンかグリルでよーく焼いて、皮がぱりっとした方が好き。でも、煮込みやパイ、パスタソースなど、ソーセージは大活躍します。ただ脂肪分も多いので、最近は少し控えておりますが。そういう風潮を考慮して、脂肪分を減らしたものや、小麦などの “つなぎ” を減らした肉肉しいもの、牛肉や鹿肉を使ったものなど、種類はぐんと増えています。

ほんとは上を切ってあるパンが体裁として好きなんですけど、市販のもの、すでに横をスライスしてありました。でも内側を焼くのに便利だった。ソーセージ焼いた後のフライパンの上に、パンを開いてぱかっとふせて、内側を軽く焼くとおいしさアップ。
キャベツとたまねぎをオリーブオイルで炒めた後、ちょびっとバターをまぜこみ、パセリを散らしました。もちろん写真撮ったあと、ケチャップとマスタードをたっぷり!
本文とまったく関係ないのですが、本日のレトロな昼食。コロッケもどきは冷凍食品のチキンバーガーの中身。カツ丼もどきが作れるかな?と思って買ってみたのですが、衣に力がなく、そのまま食べることに。チキンナゲットを平たくしたようなものでした。サラダは近所のオーガニック農家のもので、近所のコンビニで買えるのがラッキー。そして甘みのない自国のトマト。じゅんこブログ編集長が「岩国のを食べさせたい!」と叫ぶこと必須。


エッセイ「新しい世界」by Yumiko

 アイルランド北西部の片田舎に家を借りて数ヶ月。隠遁生活をしているときだったので、ロックダウンといわれても、ふだんの暮らしぶりにほとんど変化がありません。
 仕事に支障が出てる多くの人たちには心底同情しています。どうか無理をせず、ご自愛していただきたいと願うとともに、アイルランドが目指している「自分が媒介になって、身体の弱い人を苦しめる事態になるのを避けよう」というアプローチを心がけてほしいです。

 私ごとですが、アイルランドで初めての料理本を出版する予定で5年間準備を続けてきて、あとは印刷に入れるだけというときに、この事態が起こりました。料理イベントの話も複数前向きに進んでいましたが、もちろん無期延期。でも落胆するより「あ、レシピもっと増やせる」と思ったのは、わたしの強みなのか弱みなのか、よくわかりませんが。

 日本がまだオリンピック開催にこだわっていた頃、この国ではcovid-19の感染を減らすための政策が迅速に進められていました。最大のイベントといえるセント・パトリックスデーのパレードが中止になる直前、パブの営業が自粛から禁止になったのは、飲んべえのこの国では異例なんてものではなく、革命に等しい事態だったと感じています。今も、この国の文化のひとつが息をひそめている様には心が痛みます。
 でもね、そこがアイリッシュ。こんな機会じゃないとって、外壁のペンキ塗りしてるパブをよく見かけ、未来に思いをつなぎ、今やれることをやる前向きさが好き。

 今いる小さなヴィレッジのコンビニエンスストアには、早い時点でレジスタッフと客の間にプラスティックのスクリーンが設置されました。マスクは使い方をまちがえると、かえってウィルスの温床になる場合があるので、この国ではあまり積極的に勧められていないようです。よくマスクを顎にひっかけて、またはめちゃうとき、ありません? いけないんですよ〜、顎についてたウィルスが口に運ばれますんでね。そんなことを過去、白血病に罹った母を見舞うときに学びました。今と同じように、マスクは母のため。わたしがウィルス持ち込んだら、母の命取りになったからはめたまでです。
 以来わたしは異常潔癖症で、買ってきたワインボトルを洗ってから冷蔵庫に入れる始末。なので、こういう事態はふつうなんです。

 一見、今は異常事態ですが、私的見解ですけれど、人間らしい生活を取り戻すためのいい機会なのではないかと感じています。
 地球温暖化が問題視され、いつも頓挫するのは「経済」との折衷。大事なのはそこか? 世界中のすべての人に、平等に問われる状況は今回が初めてではないですか?
 いちばん大事なことって何??

 東京で、大きな虹を見たってメールをくれた友人がいます。虹、それも二重で。
 空気がきれいと思っていたアイルランドでさえ、この時期に、いつも見えない山が家から見られるようになって驚いています。

 日本ではとりづらい “ソーシャル・ディスタンス” 2メートルも、ここでは軽く実行可能です。認められた距離(2キロ以内と決められています)で出かけた散歩で、2メートルを保っておしゃべりするご近所さんを見かけました。遠くから大きな話声が聞こえてきたので、てっきりケータイ電話を使っているのと思いきや。
 人より羊の数の方が多いこの国にいると、東京の人混みはほとんど恐怖。ソーシャル・ディスタンスをとるのが不可能という状況を解消すべきときにきているのでは?と強く思います。

 今の家にはテレビがないので、もっぱらラジオ。詩人の国らしく、ロックダウンをテーマにした詩の朗読をとりあげる番組があるのですが、そこで「人はどうしていつも、何かを生産していないといけないと思うのだろう」って一節が読まれ、妙に納得。

 エコロジカルな生活が大きく注目されるようになったのは、ケルティックタイガーとよばれた経済絶頂期のあたりでしたが、今こそそれを試すときなのでは?
 農業国らしく、家で野菜を作る人がさらに増えるのではと思います。今いるところは、そもそも庭にビニールハウスがあるのがふつうなのですけど。
 ウィルスが大気を汚染するものだったら、コクーニング(Cocooning)はさらに過酷なものになっていたはずで、自然と接する自由があるのは幸いです。
 特にこの時期、庭に出ると鳥たちのコーラスが素晴らしく、周辺の農場からは子羊と母羊の掛け合いが聞こえてくるし、自然界は生命力にあふれていて感動的。
 すべてが静止しているように思える日々ですが、さにあらず。

 スイスに「コレラ」という料理があるのは、“大家” さんのキャサリンがスイスに住んでいるので知りました。19世紀にコレラが流行したとき、買い物に出られず家にあるもので料理したパイで、今も伝統料理として現存しているそう。あまり食欲をそそる命名ではないですけど、かたや「コロナ」と名付けられる料理は生まれるのかな?
 買い物には出られる今の状況は、コレラに比べたらずっとゆるいので、みんなふつーに冷凍ピザとか食べているからな〜。
 こういうときに「工夫」をする努力しなくて、いつするの? それが自分に課すひとつのテーマです。

ソーシャル・ディスタス、問題なくとれるカントリーサイド。
裏庭には、こんなペットたちが!母屋の住人が飼ってるんですけど、巣ごもりもまったく苦になりません。そろそろ歯がはえてきてるので、指をちゅーちゅーしてもらうのに若干不安がともなう今日この頃。
夫マーク、巣ごもり中。太って見えるのは着ぶくれです。すぐには読みきれない辞書みたいな歴史の本を楽しんでおります。彼いわく「こういうときに本を読まない人は、もう一生本を読むことはない」ごもっとも。わたしはスコットランドの作家アリステア・マクラウドの短編集を拾い読みしています。シチュエーションがばっちりすぎて、感動が倍増。読み終えたくないので、ゆっくりかみしめています。
うちの前は国道で、見てください、制限速度が時速100キロ!こわくて歩けなかった道ですが、今はがらがら。いつもこうだといいな〜




top