Yumiko's

松井ゆみ子がアイルランドからお届けする「食」と「音楽」のこと

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music

フィドル合宿

地元スライゴーで開催されるサマースクールに参加してみたいと長年思っていたのですが、ようやく実現できました。
カウンティ・クレア、ミルタウンマルベイのウィリー・クランシーサマースクールを皮切りに、8月の大会フラー・キョールまでの数週間、アイルランド各地でサマースクールが開催されていきます。
スライゴーは南部タバカリーという小さな町で、ミルタウンマルベイからバトンタッチする形でスタートします。
地元といってもクリフォニーの我が家からタバカリーまでは車で小一時間。通えない距離ではないですけれど、1週間を存分に楽しみたかったので町中に宿をとり、万全の態勢で臨みました。
レッスンは月曜日から金曜日まで毎日3時間、土曜日はお昼までの2時間。お昼休みのあとにはレクチャーがあったり、練習セッションがあったり、名手たちのコンサートなどもりだくさん。町にあるパブすべて(今は4カ所)でレッスン後すぐにセッションが始まり、これは夜中まで続きます! いつもコンサートで見ているスライゴーミュージシャンたちが、ふつーに演奏していて目が離せません。
朝10時のレッスンから始まって、宿のベッドに入るのは夜中2時すぎ。タフな1週間でした・笑。

ここの伝統音楽のレッスンには基本、譜面を使いません。
五線紙の楽譜を用意してくれる場合もありますけれど、そこには微妙なリズムが刻みこめないので、使わない方が賢明なのです。
アイルランド式で、ドレミをギターのコードと同じABCに置き換えた譜面というか覚書のようなものを使うことが多いのですが、わたしはこれがまだ使いこなせず、聴いて覚える、を実践しています。それがね、めちゃくちゃ面白いのよ。集中して頭の中でメロディをなぞらえる。
脳内なのか、反射神経みたいなもので手の方が先なのか、やがてチューン(楽曲のことをこうよびます)が体内に染み込んできて弾けるようになる、そのプロセスが大好き。
今回の先生は隣県メーヨーのフィドラーDavid Doocey / デヴィッド・ドゥーシー。地味だけど(ごめんなさい!)素晴らしい演奏家です。アコースティック(音響)のいい教室で、彼の最初の演奏を間近で聞いた瞬間、このクラスでよかった!と心底思いました。もうね、ずーっと聴いていたい。
と言っても伝わりにくいでしょうから、ここで映像を。

アメリカ生まれですが、その痕跡ほぼなし。
アメリカでよく使われる「Awesome」とか言ったら別のクラスに移るつもりでしたけれど(最近はアイルランドでも耳にするけれど、”超かっこいい〜〜”みたいな軽い響きで嫌いなの・笑)、幸いDooceyは朴訥としたメーヨーらしい話し方をする人で好感度が増しました。
こんなゆったりとした包容力のある、温かいフィドル演奏、珍しいと思います。
タバカリーのサマースクールは、上級者にスライゴースタイルを習得してもらうのが大きな目標になっている印象で、ビギナークラスがありません。Improverとよばれるわがクラスがボトムで、ビギナーを少し抜け出して上を目指す人のくくりです。上のクラスはだいたいレベルが揃いますけど、ボトムクラスは見事にばらばら。それをまとめあげた先生の力量も素晴らしかった。もうね、Dooceyの大ファンです。
ここで映像もうひとつ。意外なミュージシャンとコンビを組んでいるので。

タバカリー滞在中、いちばん嬉しかったこと。
毎晩聴きに行ったセッションで、ある地元ミュージシャンから、わたしのおべんとう本(2021年にアイルランドで出版した『Yumiko’s kitchen “O’Bento”』)を買いたいと言われたとき。本を作ったことなんて話したことないのに、なぜ知ってる??と、まずびっくり。
彼のライブには何度も足を運んでいるので、そこそこ顔馴染みだったけれど、世間話をするのはいつもマークだったし。
なかよしのパブ・オーナーに進呈した拙著を自慢&宣伝してくれていたらしく、彼から聞いたのだそう。
すぐに「買わないでね!あげるから!」とミュージシャン氏に贈呈。だって彼の音楽にはたくさんのエネルギーをもらっているから。
お返しに近々のライブチケットをいただいちゃった。翻意じゃないのだけど。
後日、なかよしのパブ・オーナーに「拙著を宣伝してくれてありがとう」と言ったらば「みんな欲しがってるぜ!新刊作って日本で出版記念やろうぜ!」だって(爆笑)。
おかげさまで、おべんとう本の初版はほぼ完売です。

タバカリーの翌週は隣県リートリムのドラムシャンボー開催。同時にベルファストでもサマースクール&フェスティバル開催。
スクールメイトたちが「次はどっちに行くの?」と聞いてくるなか、わたしは自慢げに「ドニゴール」と答えたのでした。
翌々週。メーヨーのアキル島と同じ時期に開催されるドニゴールのフィドル・ウィーク。これはかなりの決断。大げさでなく。
きっついドニゴール訛り(言葉もフィドルの弾き方も!)を理解できるのか? ユニークなドニゴールチューンを万年ビギナーのわたしが学べるのか??
湧き上がる疑問に加えて、会場などの基本情報がまったく得られない謎のサマースクール。
行きましたとも。
そして。半月以上も経つ今もまだ、衝撃(いい意味の)が抜けません。
いつ消化できるのかわかりませんけれど、この体験は、あらためてゆっくり記述したいと思っています。

新たな扉を開けちゃった。

予告編として、わたしの大好きなドニゴールフィドラーのセッションシーンを。右側のフィドラー、マーティン・マッギンレー。スライゴーの誇るダーヴィッシュの創設者です。



アイルランドからの秋風と音楽の話

日本の猛暑ニュースを見るたびに、ここの涼しさを申しわけなく感じています。
今年はアイルランドも天候不順でことさらに雨が多く、うちの大家さんはまだ干し草づくりができずにいます。去年は夏前と晩夏の2回も収穫できたのに!
毎年楽しみにしている地元のトマトも、陽射しが足りないのか熟れる前に季節最後みたいな水分の少ないものになっていて残念。
グースベリーに至っては、いつも摘みに行かせてもらっている知人から、実が育たない〜と言われて今年は断念。庭のりんごはそこそこ育っているので、良しとしなきゃ。

今年は音楽満載の年にしようと思っていたのですが、期待以上に充実した日々をすごしていて、ここで少し”おすそわけ”ができたらいいなと思い、ひさしぶりにブログの更新をしました。お楽しみいただけたら嬉しいです。

キックオフは4月。オーエン・オキャノボーンから。

コンサートでの編成は、この映像で登場しているヴァイオリニスト以外の3人。オーエンをサポートするギターとチェロのコンビは、Ian Kinsella と Kaitlin Cullen -Verhanz。アメリカ出身ですが、苗字にはアイルランドの血筋らしき形跡。このコンビは現在、レジェンドグループ、デ・ダナンのメンバーとしても活動しています。
オーエンの歌、素晴らしいです。生で聴くのは初めてで、最初の一声でのけぞりました。
会場は隣県リートリムの町カリック・オン・シャノンにあるThe Dock。19世紀に建てられた元・裁判所を文化施設として活用しています。歴史を感じながら、現代で活躍する若いアーティストのステージを観るのはすてきな体験です。

オーエンのコンサートの興奮もまだ冷めやらぬ1週間後。1月のCD発売後から楽しみにしていた地元のイルンパイパー、レナード・バリーのコンサートへ。

彼の演奏はしばしばスライゴーのパブのセッションで聴いていましたけれど、コンサート会場で聴くのは初めて。あらためて素晴らしいパイパーだと実感しました。メンバーも地元でおなじみの顔ぶれですが、スライゴーのミュージシャンの質の高さに圧倒されました。
11月、レナードはギターのシェイミー・オダウド、フィドルのアンディ・モロウのトリオでリサ・オニールの出演するコンサート・イベントに参加します。絶対に観に行くんだ🎵

このあと5月、ロリー・ギャラハー・フェスティバルでギター弾きまくるシェイミー・オダウドを堪能。
そして6月。念願悲願だったYe Vagabondsのコンサートへ!(Ye Vagabonds、イー・ヴァガボンズですが、カタカナで書くとがっくりなので、英語で書きますっ)

2年前にスライゴーのライブを見逃して大後悔。今回のミニツアーではスライゴーが入っておらず、いちばん近い(車で約1時間)隣県メイヨーのキャッスルバーとロングフォードへ。この”ミニ旅”をくっつけるのは新鮮な楽しみになりました。ロングフォード。用事がなかったら、まず行きません・苦笑。
面白かったのは、出演者たちも「初めて来た」とコメントしてたこと。なのでステージのMCに少し苦労してましたけど、そこがまた微笑ましい。

今日日はCDを買うのはオンラインがメインになっていて厄介。
わたしはアマゾンを使ったことがありません。これは自慢。本は本屋さんで、CDはレコード屋さんで買う主義。
幸いスライゴーにはレコード専門店と本&アナログ盤を売るお店があるので主義を貫くことが可能ですが、それでも最近は流通が滞っていて買えないCDが増えています。残念。
次の手段はコンサート会場で買うこと。
Vagabonds のファーストアルバムは、オンライン上では売り切れになっていましたけれど、会場では買えたもん。そして、これがまたすごくいいアルバムだった。大いに得した気分。

余談。最初にキャッスルバー公演を観て、CD買う気まんまんでいたら、なんと終演後にメンバーが売りに現れた! その日は勇気がなくて購入断念。
1週間後のロングフォードはツアーほぼ最終日だったので、ここを逃したらもう買えないと意を決して本人から買いました。ヒマールに送る分も購入しているので、いずれみなさんも聴ける機会があると思います。

9月はいよいよLankumを観に!
大好きなJohn Francis Flynnのツアーも始まるし。
ずっと気になっていたDaoiri Farrell / デリー・ファレルや新星Niall McCabe / ナイアル・マッケイブも近場で観られそう。年末まで、コンサートの予定が続々。
突然発表になるミニツアーもあり、スケジュールを追いかけるのに忙しく、若いとき、『ぴあ』をくまなく見ながらコンサートに通っていた頃を思い出しました。今もおんなじじゃんね。

続編はまた後日!

猛暑、乗り切ってくださいね。
スライゴーの果ては、すでに「寒い」の範疇になっていますーー



必聴アイルランドのラジオ番組

アイルランドの音楽事情を知るのならラジオがいちばん。
わたしの音楽情報源はほぼ全部ラジオといってもいいくらい。今や世界中どこでも聞けるようになったのも嬉しい限り。リクエストはアイリッシュゆかりの地アメリカやオーストラリアをはじめ、ときどき日本からも。
Pod castでいつでも聞かれますから、ぜひお試しください。
まずはほぼ欠かさずに愛聴している番組から。

Late Date(RTE radio1)
https://www.rte.ie/radio/radio1/late-date/

フォーク&ロック、ときどきトラッド、古いジャズなど様々ですがセンス抜群。聞き始めて5〜6年ほど愛聴し続けています。

メインのプレゼンターはCathal Murry(カハル・マリー)。週末はホットハウスフラワーズのFichana O’Braonain=O’Brenna(フィークナ・オブレナン)。フィークナのピンチ・ヒッターをつとめるRay Cuddihy(レイ・クディヒー)。
カハルのスウィート・ボイスもすてきですが、何よりも彼の好みが驚くほどわたしと一緒。’90年代に彼が行ったコンサートの話などを聞くと、同じ時代に同じ場所で同じ音楽を共有していた模様。当時の彼はまだ10代だったそうですが……。
ピンチヒッターのレイ・クディヒーが登場して2年ほどかな。今いちばん好きなプレゼンターです。ばりばりのコーク訛りも好感度を高めています。彼はスライゴーのミュージシャン、シェイミー・オダウドやリック・エッピンの大ファン。LankumやYe Vagabonds など、ヒマールでもおなじみのグループの曲がしばしばかかります。
アンディ・アーヴァインの歌もしょっちゅう。先日は彼が在籍していたSweeny’s Menの「Sally Brown」が流れたのですが “あれ?Lankumのコーラスアレンジに似ている!?”とびっくり。Lankumのというよりはリンチ兄弟のコーラスがSweeney’s Menに大きく影響を受けている印象で。
と思っていた矢先にレイがかけたのがLankumの新曲。こういうオタクさがたまらなく楽しい。

ではここでSweeney’s Menの「Sally Brown」を。

この曲はのちにアンディが参加したPlanxtyで歌い継がれています。
楽しそうなのでこちらも。

Sweeney’s Menは正直ちゃんと聴いたことがなかったのですが、この発見であらためてちゃんと聴いてみたいと思いました。
Planxty の土台はアンディが築いていたと言えそうです。

別の日にかかったのは、UKのパンクバンド“ハーフマン・ハーフビスケット”。’90年代はじめのダブリンで、わたしの友人たちが愛聴していたバンドです。マークから教わって、結婚式でも流しました・笑
貴重なアルバムは’85年にリリースされた「Back in the DHSS」
もしもどこかで見つけたら絶対にgetしてください!必聴盤です。

長くなるので本日はこれまで。



Ballyshannon Trad & Folk Festival 2023

アンディ・アーヴァインとドーナル・ラニーのステージを観てきました!
ものすごくよかったので興奮冷めきらぬうちにお伝えしたいと思います。
バリーシャノンはカウンティ・ドニゴールにある街で、アイルランドが誇るロック・ミュージシャンRory Gallagher (ロリー・ギャラハー/ギャラガーとよぶのは英国人と外国人)にまつわる場所。毎年6月に彼のトリビュートフェスティヴァルが開催されます。
今回わたしが行ったトラッド&フォークフェスティヴァルは、ロリー・フェスの後なので以前よりも若干規模が小さくなったと聞きましたけど、大げさでない分ローカル色が濃くて、そこが素晴らしかった。地元の夏祭りにすごい出演者が登場するような感じ。

ふたりのステージは1時間ほどでしたが、濃厚なラインアップで聴きたかった歌が凝縮。ヒマール刊行のアンディ詩集のおかげで予習も充分!
歌の内容がさらに伝わって、感動が倍増しました。

「The Plains of Kildare/キルデアの平原」は、マークとわたしにとって特に思い入れの多い歌です。だって“キルデアの平原”=Curragh(カラ)はマークの実家のすぐ近く。わたしもしばらく住んでいた思い出深い場所です。
歌の舞台になっているカラ競馬場には数え切れないほど行きました。
マークが競馬専門のジャーナリストになったきっかけでもありますし。

ヒマール刊「Never Tire of The Road/旅に倦むことなし」の82ページを参照してください(学校の授業みたい・笑)
カラではダービー始めクラシックレースが開催されますが、2頭立てのレースって??と不思議だったのですが、この歌の舞台は18世紀までさかのぼるそう。歌われている馬たちはサラブレッドではなくポニーと総称される少し小さめの馬です。ポニーレースは今も健在ですが、正規の競馬とは異なります。でも“草競馬”の様相で、この歌のシーンに近いかもしれません。
アンディが参加したPlanxty/プランクシティのイルンパイプス奏者リーアム・オフリンが乗馬の名手であったことは、日本ではあまり知られていないと思います。

絶対に聞きたかったのが「A Blacksmith Courted Me/鍛冶屋に口説かれた」。Planxtyを聴き込むようになってから大のお気に入りになった1曲です。ちなみに、この歌に出てくる“鍛冶屋”は定住をしないトラベラーのことと推測しています。かつては馬車で移動しながら暮らしていて、馬の蹄鉄を直したりするために必要に迫られて身につけた鍛冶屋の技術。それが生活の糧にもなっていったのだと思います。行く先々で鉄製のものを直して生計の足しにするのです。伝統音楽に欠かせないイルンパイプスの奏者にトラベラーのバックグラウンドを持つ人は少なくありません。ティンホイッスルもそうですが、鍛冶屋の技術が楽器も生み出すのです。
詩集の中でアンディが書いているように、最後のインスト部分がまた圧巻。ドーナルが以前どこかで「ブズーキは素晴らしい楽器だよ。パーカッションにもなるしね」と言っていて「え?弦楽器が打楽器に??」と不思議に思ったのですが、彼がステージで証明してくれました。そこからグルーブが生まれるのです。たったふたりなのにバンドサウンド。すごすぎ。

本のタイトルになっている「Never Tire of The Road」はアンコールに応える形で歌われました。

アンディはまだまだツアーが続きます。
またどこかで必ずコンサートを見よう!と固く誓ったマジックナイトでした。

1976年の演奏から「The Plains of Kildare/キルデアの平原」を。
ポール・ブレイディ、ドーナル・ラニーとの演奏です。



今注目を集めているミュージシャン特集

個人的なおすすめも含めて、気に入っていただけたら嬉しいなと思うミュージシャンをご紹介したいと思います。たぶんまだ日本ではあまり知られていない人たちばかり。
まずはヒマールご店主、辻川夫妻も大絶賛のこのグループから。
新譜がリリースされたばかり、ツアーも控えてブレイク直前、衝撃映像です!

北アイルランドとの境にあるダンドーク(Dundalk)出身のチャールズ(このヴィデオではメインヴォーカル)とアンドリューのヘンディ兄弟、ショーン・マッケーナのヴォーカリスト3人が中心。地元のサポートが熱く、すでに国営放送でも何度か取り上げられ、新作の発表とともにラジオでもこの曲ががんがん流れ始めたところ。わたしはつい最近、新作以前の作品を見つけてファンになったばかりなのですが、すっかり虜!
「Cod liver oil ( 肝油)とオレンジジュース」はスコットランドの歌です。

次は、最近ようやく名前と顔と声が一致したばかりの女性アーティスト。
音楽一家のなかで育ち、フィドルは3歳で始めたという多才な人でサクスフォンまでこなし、毎回印象が異なるので混乱していましたが全貌が見えたところです。スライゴーのテーマ・ソングともいえるこのチューンを。

共演しているBridin はヴィデオの舞台になっているスライゴー南部エニスクローン(Enniscrone)出身のハープ奏者。実家が葬儀屋さんで彼女もフルタイムで働いているそう。父親は有名かつユニークな人物です。

クレア・サンズ(Clare Sands)の多才さを知っていただきたいので、もう1曲。

ポエトリーリーディングは歌の原点、ミュージシャンとの共演もしばしば行われます。コナル・クリーダンはコーク出身の作家で、わたしが愛聴しているラジオ番組のプレゼンター、ジョン・クリーダンの兄弟。

さて次。2021年に新譜がリリースされ、まだロックダウンモードが続くなかでしばしばラジオから流れてきたこの歌を。

閉ざされた家のなかで聴くにはぴったりでしょう?
エイドリアン・クラウリーはマルタ島で生まれ、ゴールウエイとダブリンで育ったユニークなシンガー。90年代後半、ダブリンにあったシンガーズ・クラブといった感じのカフェで歌うエイドリアンを観ています。暗いな〜〜と思いましたけど、20年以上続ければ“スタイル”になるのですよね。今聴くとかっこいい。変わらないところも、かっこいい。
そのカフェには、まだ無名だったデミアン・デンプシーやパディ・ケイシー、マンディたちが歌いに来ていました。なつかしいなーー

John Francis Flynn の名前はよく耳にしていましたが Ye Vagabondsと親交があるのはラジオのインタビューで知りました。
「ロックダウン中のほうが会う機会が多かったかも。解けたらお互いツアーに出ちゃってちっとも会えない」と冗談まじりにコメント。
ではジョン・フランシス・フリンのオリジナル曲を。

彼の歌う伝統歌「Lovely Joan」もすごくいいのでチェックしてみてくださいね。
ヴィデオにもちょこっと登場しているフィドラーのウルタン・オブライエン(Ultan O’Brien)はジョン・フランシスのサポートの他に、やはり今注目されているシンガー&ミュージシャン(コンサーティーナ、ホイッスルetc)のオーエン・オキャナボーン(Eoghan O’Ceannabhain)とユニットを組んでいます。

オーエンの新曲ヴィデオはおなじみマイルスの作品。ウルタンは登場しませんが、キッチンでの演奏風景はとてもアイルランド的。

オーエンは、ジョン・フランシス、ウルタンとともにSkipper Alleyという7人編成のトラッドグループで活動していました。7年ほど前のこと。
個々にデビューするよりもグループで活動を始めたのはとても賢いと思います。Planxtyは大きなお手本になっていたよう。
フェスティバルなどにも招かれ、テレビ出演もし、充分に注目を集めたのち、今それがそれぞれの活動のフックになっています。

最後は幅広い活動で独自の立ち位置を見つけたコンサーティーナ奏者コーマック・ベグリー(Cormac Begley)と、おなじみになってきたYe Vagabondsのセッションを。コーマックはディングル出身、父親も叔父も有名なアコーディオン奏者です。今、父親ブレンダン・ベグリーとキャラヴァン(キャンピングカー)でふたり旅をしながら行く先々の土地で地元のミュージシャンとセッションするテレビドキュメンタリー番組が好調。うちもかかさず観ています。
コーマックは珍しいコンサーティーナをたくさん所持していて、低〜い音の出るベース・タイプは彼の専売特許のようになっています。彼の演奏を初めて観たのは代々木でした(笑)。
そのすぐあとにアイルランドでライブを観ることができ、ステージ上に並べた様々なコンサーティーナに驚きました。手のひらにのりそうなピッコロタイプも。

このヴィデオではベースタイプを使用。演奏には力が要るそう。共演者たちはそれを知っていて、いつもだんだん演奏を加速していくのが面白くて。

お楽しみいただけたかしら。
まだまだご紹介したいミュージシャン&映像がたくさんあるので、いずれまた書かせていただきたいと思っています。
フリーペーパー冬号も準備を進めていますので、お待ちくださいねーー!



今も音楽シーンを牽引するアンディ・アーヴァイン

ほぼ毎日ラジオを聞いていますが、アンディ・アーヴァインのスゥィートな歌声が流れない日は少ないです。リスナーだけでなく、プレゼンターもアンディのファンなのですよね。

まずは彼の詩集のタイトルで、彼自身のテーマソングともいえるこのチューンから。ドーナル・ラニーとアルタンのマレードが共演する豪華なヴァージョンでお届けします。

次はアンディが自書で「持ち歌のなかで、もっとも人気が高い」と明言している歌を。初めてレコードに収録したのは1972年、当時参加していたプランクシティ(Planxty)のアルバム。彼らとの貴重映像でお楽しみください。

Blacksmithは確かに「鍛冶屋」のことですが、日本ではたぶんあまり身近な存在ではなくなっていますよね?
アイルランドのブラックスミスは健在です。馬文化の国ですから馬の蹄鉄を作るブラックスミスの存在は欠かせませんし。
定住せずにキャラヴァンで旅しながら生活するトラベラーズとよばれる人たちがいて、彼らの多くがブラックスミスの仕事をすると聞きます。かつては馬車での移動でしたから、蹄鉄作りが必須だったのも理由のひとつ。そして彼らは伝統楽器のティンホイッスル、イーリアンパイプスの作り手でもありました。

次は、1950年代にアメリカで活躍したアイルランド人グループ The Clancy Brothers(以下クランシーズ)。今彼らの映像を見ると、あまりにステレオタイプなルックスで笑っちゃいますが(失礼)かのボブ・ディランもファンだったそう。ヴォーカリストのひとり、リーアム・クランシーのことを「最高のバラッドシンガー」とコメントしています。

クランシー兄弟はティパレリ出身でアメリカへ移住。ヴォーカリストのひとりトミー・メイカム(Tommy Makem)は北アイルランドのアーマ(Armagh)出身。

クランシーズがユニフォームにしているアランセーターが、彼らの成功のおかげでたくさん売れるようになったのですって。それまでは家族のために編むもので商品価値がでるとは考えていなかったよう。アイルランド人らしい。
クランシーズは1940年代に始まったアメリカのフォーク・リバイバルの流れのなかで登場しました。この流れは日本にも到達し、ピーター・ポール&マリーやジョーン・バエズ、ボブ・ディランなどの音楽とともに反戦をとなえるプロテストソングの在り方も伝わってきました。サイモン&ガーファンクルも然り。デビューまもないポール・サイモンはイギリスに渡り、現地の伝統歌を継承し「スカボロー・フェア」という新たな伝統歌を作り出しています。

アイルランドもアメリカ、イギリスのフォーク・リバイバルの影響を受けてはいますが、なにせテレビもラジオも普及していない時代。家でレコードを聴ける人も限られていたはずです。逆にそれが幸いし、この国ならではの音楽シーンが築かれたのかもしれません。
1960年代にショーン・オリアダが キョートリ・クーラン(Ceoltoiri Chualann)を結成し、庶民の家庭で受け継がれてきた音楽がステージでスポットライトを浴びる音楽へと変化。メンバーだったイーリアンパイプス奏者のパディ・モロニーが脱退して新たに結成したのが日本でもおなじみのチーフタンズ。伝統音楽にかつてなかった流れが生まれるなか、プランクシティはさらに衝撃的な存在として注目を浴びました。
ご紹介したプランクシティの映像は古いですけれど、演奏の斬新さと力強さは今でも「おお!」と感嘆。キョートリ・クーランはアカデミックな世界へ、チーフタンズは海外へ、プランクシティは国内で増えてきていた伝統音楽に疎い輩を刺激するために、それぞれ別の立ち位置でアイルランド音楽を高め広める役割を果たしました。

1970年代。プランクシティを離れてドーナル・ラニーは新たなグループ、ボシー・バンド(Bothy Band)を結成します。女性メンバーが参加しているのは大きな変化。60年代のグループには滅多に女性メンバーがいません。日本と同じで女性は家庭を守るものとされていて、ツアーに出るのが前提のバンドに参加するのには大きな抵抗があったのですね。70年代、女性が参加するグループが急に目立ち始めたのは“自由”の表れといっていいと思います。

アイルランドでしばしば「音楽を形にすると、この人になる」と思うことがあります。ここで記したのもそんな人たちです。
おまけに最近こんなヴィデオを見つけて思い切りやられました。圧巻。
彼は“こども”ではなく、小さなジェントルマンです。

次回は今もっとも注目のミュージシャン特集。

ひき続きお楽しみくださいませ!!



音楽生情報を現地アイルランドより

ラジオ番組が超充実している国なので、新旧とりまぜてすてきなチューンを毎日楽しんでいます。

ヒマールで詩集を出版した大御所アンディ・アーヴァインのスゥィートな歌声も頻繁に聞くことができますし、彼に影響を受けたという若手たちも続々登場。ロックダウン中に熟成したミュージシャンが、今解き放たれて見事に羽ばたいている印象です。
そんな音楽シーンをここでお伝えできたらいいなと思いつき、サバイバルキッチンからお届けすることにしました。ラジオ、台所に置いてあるので!

まずはヒマールご店主夫妻のお気に入りYe Vagabonds 。
アイルランドの離れ小島6島をめぐりながらライブ&映像収録したドキュメンタリーの一部です。場所はアラン諸島のひとつInis Meain(イニシュ・マーン)。

兄弟デュオYe Vagabonds (イー・ヴァガボンズ)は中部域Calow(カーロウ)出身。伝統音楽不毛な地と思っていたのは彼らの他にカーロウ出身ミュージシャンをまったく知らないからです。最近聞いた彼らのインタビューによれば、お母さんがドニゴールにある離れ小島Arranmore(アランモア)で育ったのだそう。ルーツは北にありました。
新曲はオリジナル曲で、今ラジオでたくさんオンエアされているところ。ぜひ日本でもお聴きいただきたいのでご紹介いたします。あえて人気テレビ番組でのスタジオライブを。

ロックダウン中に書かれた新曲は、最近亡くなったアランモアの古い友人に捧げたものだと聞きました。
番組司会者Tommy Tiernan(トミー・ティーナン)はコメディアン。音楽にも造詣が深く、フィドルの巨匠マーティン・ヘイズも何度かゲスト出演しています。
Vagabonds は、古いチューンを歌い継ぐと同時にオリジナル曲も生み出し、新たな伝統をつくっていくタイプ。アイルランドの伝統音楽は、スタイルを変えずに守り続けるのではなく、変化しながら踏襲されていく、懐の深いものなのです。

さて次は、名実ともにトップクラスのトラッド&フォークグループLankum(ランカム)。わたしも大ファン。まずはこの映像から。

バンドメンバーは4人、フルメンバーのVideoを。

ファーストアルバムからのシングル曲で、ラジオでしばしば耳にしていました。イアンとダラは兄弟で当初バンドは彼らの苗字LynchをもじってLynchedを名乗っていたのですが、デビューするにあたって“リンチ”は誤解を招くかもとLankumに改名しています。
フィドルのコーマックはスライゴーフィドル奏者の代表格Oisin Mac Diarmada(オシーン・マクディアマダ)の弟!と気づいたのはこのコラムを書いている途中のこと。他のメンバーはみなダブリン出身なので、スライゴーつながりがなんだか嬉しい。

いつもランダムにyoutubeを楽しんでいたのですが、ふと共通項に気づきました。上記したミュージシャンたちはみな同じレコード会社と契約を交わしています。偶然というか、必然。イギリスのRough Tread、インディペンデントレーベル最高峰といっていいのかな。ここがアイルランドのフォーク・シーンに貢献しているなんてちっとも知らなかった。
そしてもうひとつ。ご紹介した youtube 1つめと3つめの映像は同じ作家が撮影しています。ここしばらく、かなりたくさんの映像を観てきたのですが、ふと気づいたらすべてMyles O’Reillyの作品!彼自身もミュージシャンなので、ここでご紹介します。いい曲です。

マイルス・オライリーは、プロデューサーのドーナル・ディニーンと組んで “This ain’t no disco” というヴィデオ作品をシリーズで制作しています。わたしは見事、彼らの作品群に絡め取られていたわけで。

90年代後半にToday FMが開局し、ドーナル・ディニーンの番組は超クールで大ファンでした。デヴィッド・グレイやデヴィッド・キット、ディヴァイン・コメディら当時はまだ無名に近いミュージシャンを次々に紹介し、カルトなムーヴメントを確立したのちにテレビの新番組No Discoのパーソナリティに抜擢。これがまたテレビでは珍しい斬新な音楽番組で注目を集める最中、番組パーソナリティのひとりが事故死する悲劇が起き、立て直しを図るものの数年後に打ち切りに。やるせないエンドマークでしたが、今またドーナル・ディニーンのクリエイティヴィティに再会できたのは嬉しい驚きです。This ain’t no discoという名前には、打ち切られたNo Discoに対する思いがこめられていたのでした。

This ain’t no discoのシリーズで、Lankumのラディ・ピートとリサ・オニールのコラボレーション映像を。レコードレーベル仲間でもあり、ラディがリスペクトしているユニークなシンガー、リサが古い歌に新たな息吹を与える瞬間。

次回は、若手ミュージシャンたちに大きな影響を与え続けているアンディ・アーヴァインの歌声を!




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