Yumiko's

松井ゆみ子がアイルランドからお届けする「食」と「音楽」のこと

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essay

フィドル合宿

地元スライゴーで開催されるサマースクールに参加してみたいと長年思っていたのですが、ようやく実現できました。
カウンティ・クレア、ミルタウンマルベイのウィリー・クランシーサマースクールを皮切りに、8月の大会フラー・キョールまでの数週間、アイルランド各地でサマースクールが開催されていきます。
スライゴーは南部タバカリーという小さな町で、ミルタウンマルベイからバトンタッチする形でスタートします。
地元といってもクリフォニーの我が家からタバカリーまでは車で小一時間。通えない距離ではないですけれど、1週間を存分に楽しみたかったので町中に宿をとり、万全の態勢で臨みました。
レッスンは月曜日から金曜日まで毎日3時間、土曜日はお昼までの2時間。お昼休みのあとにはレクチャーがあったり、練習セッションがあったり、名手たちのコンサートなどもりだくさん。町にあるパブすべて(今は4カ所)でレッスン後すぐにセッションが始まり、これは夜中まで続きます! いつもコンサートで見ているスライゴーミュージシャンたちが、ふつーに演奏していて目が離せません。
朝10時のレッスンから始まって、宿のベッドに入るのは夜中2時すぎ。タフな1週間でした・笑。

ここの伝統音楽のレッスンには基本、譜面を使いません。
五線紙の楽譜を用意してくれる場合もありますけれど、そこには微妙なリズムが刻みこめないので、使わない方が賢明なのです。
アイルランド式で、ドレミをギターのコードと同じABCに置き換えた譜面というか覚書のようなものを使うことが多いのですが、わたしはこれがまだ使いこなせず、聴いて覚える、を実践しています。それがね、めちゃくちゃ面白いのよ。集中して頭の中でメロディをなぞらえる。
脳内なのか、反射神経みたいなもので手の方が先なのか、やがてチューン(楽曲のことをこうよびます)が体内に染み込んできて弾けるようになる、そのプロセスが大好き。
今回の先生は隣県メーヨーのフィドラーDavid Doocey / デヴィッド・ドゥーシー。地味だけど(ごめんなさい!)素晴らしい演奏家です。アコースティック(音響)のいい教室で、彼の最初の演奏を間近で聞いた瞬間、このクラスでよかった!と心底思いました。もうね、ずーっと聴いていたい。
と言っても伝わりにくいでしょうから、ここで映像を。

アメリカ生まれですが、その痕跡ほぼなし。
アメリカでよく使われる「Awesome」とか言ったら別のクラスに移るつもりでしたけれど(最近はアイルランドでも耳にするけれど、”超かっこいい〜〜”みたいな軽い響きで嫌いなの・笑)、幸いDooceyは朴訥としたメーヨーらしい話し方をする人で好感度が増しました。
こんなゆったりとした包容力のある、温かいフィドル演奏、珍しいと思います。
タバカリーのサマースクールは、上級者にスライゴースタイルを習得してもらうのが大きな目標になっている印象で、ビギナークラスがありません。Improverとよばれるわがクラスがボトムで、ビギナーを少し抜け出して上を目指す人のくくりです。上のクラスはだいたいレベルが揃いますけど、ボトムクラスは見事にばらばら。それをまとめあげた先生の力量も素晴らしかった。もうね、Dooceyの大ファンです。
ここで映像もうひとつ。意外なミュージシャンとコンビを組んでいるので。

タバカリー滞在中、いちばん嬉しかったこと。
毎晩聴きに行ったセッションで、ある地元ミュージシャンから、わたしのおべんとう本(2021年にアイルランドで出版した『Yumiko’s kitchen “O’Bento”』)を買いたいと言われたとき。本を作ったことなんて話したことないのに、なぜ知ってる??と、まずびっくり。
彼のライブには何度も足を運んでいるので、そこそこ顔馴染みだったけれど、世間話をするのはいつもマークだったし。
なかよしのパブ・オーナーに進呈した拙著を自慢&宣伝してくれていたらしく、彼から聞いたのだそう。
すぐに「買わないでね!あげるから!」とミュージシャン氏に贈呈。だって彼の音楽にはたくさんのエネルギーをもらっているから。
お返しに近々のライブチケットをいただいちゃった。翻意じゃないのだけど。
後日、なかよしのパブ・オーナーに「拙著を宣伝してくれてありがとう」と言ったらば「みんな欲しがってるぜ!新刊作って日本で出版記念やろうぜ!」だって(爆笑)。
おかげさまで、おべんとう本の初版はほぼ完売です。

タバカリーの翌週は隣県リートリムのドラムシャンボー開催。同時にベルファストでもサマースクール&フェスティバル開催。
スクールメイトたちが「次はどっちに行くの?」と聞いてくるなか、わたしは自慢げに「ドニゴール」と答えたのでした。
翌々週。メーヨーのアキル島と同じ時期に開催されるドニゴールのフィドル・ウィーク。これはかなりの決断。大げさでなく。
きっついドニゴール訛り(言葉もフィドルの弾き方も!)を理解できるのか? ユニークなドニゴールチューンを万年ビギナーのわたしが学べるのか??
湧き上がる疑問に加えて、会場などの基本情報がまったく得られない謎のサマースクール。
行きましたとも。
そして。半月以上も経つ今もまだ、衝撃(いい意味の)が抜けません。
いつ消化できるのかわかりませんけれど、この体験は、あらためてゆっくり記述したいと思っています。

新たな扉を開けちゃった。

予告編として、わたしの大好きなドニゴールフィドラーのセッションシーンを。右側のフィドラー、マーティン・マッギンレー。スライゴーの誇るダーヴィッシュの創設者です。



遅ればせのお礼 from Ireland

2ヶ月の東京滞在から真冬のアイルランドに無事帰還いたしました。
4年半ぶりのニッポンは、なかなかに新鮮で観光客気分を味わいました。
不思議な感覚です。
11月に開催した大崎シャノンズと新橋Man in the Moonでのイベントは、おかげさまで満員御礼。ご来場くださった方々と、すてきな会場のパブふたつ、コラボしてくださったフィドルの小松大さん、ギターの長尾晃司さん、ほんとうにありがとうございました。
ヒマールのご店主、辻川ご夫妻は岩国からお手伝いに駆けつけてくださって、5年ぶり?に再会できました。イベント後にたっぷりおしゃべり♬
今回の滞在は、ごく個人的なミッションがあって自由時間はあまりとれないと覚悟していたのですが、思いがけずたくさんの友人たちと会う機会に恵まれて楽しい時間を過ごすことができました。
幸い“ミッション限りなくインポッシブル”も達成し、クリスマス直前のアイルランドに滑り込み。
夫マークもなんとか生き延びてくれていましたが、冷蔵庫は見事に空っぽ。食料の大買い出しからここでの日常が再開しました。
待ち構えていた新たなミッションのクリスマスディナーは下ごしらえの少ないローストビーフをチョイス。小さめの肉を注文したのですけど、いちばん小さいブロックが2キロ!二人暮らしなんですけどーー
おまけに大きな骨つきで焼き付けるのに四苦八苦。いちばん大きな厚手鍋にも収まらず、押し込みながら焼く始末。重いのでひっくり返すのも一苦労でした。オーブンでの焼き時間も、ほとんどのレシピは1キロの肉用なので結局当てずっぽう(苦笑)。それでもなんとかなるのがオーブン料理のいいところ。かなり野蛮な見た目のローストビーフでしたけれど、味は絶品。
元旦まで食べられそうと思う量でしたが、案外すぐに食べきっちゃえそう。それもオソロシイことですが!

今回の帰り道には初めて、アイルランド北西部にある小さなノック・エアポートを利用しました。スライゴーからは1時間の距離なので、ダブリンを利用するよりもずっと便利なのです。今年春にロンドン・ヒースロー行きが就航するようになり東京までのフライトがつながるように。ただ、1日1便しかないので万が一フライトがキャンセルになると、行きのチケットはすべておじゃん。誰もが「長距離便につなげるのはリスクが高すぎ」と言うので、ならば往路に。これがねー、サイコーでした。
ノックエアポートは地元メーヨーの神父さんの悲願で開設されたもの。
聖地ノック山とヨーロッパ各国の聖地をつなげたいという思いと、アイルランドのなかでも特に多くの移民を送り出したメーヨーにまた彼らが帰って来られるように玄関口を作りたいという、ふたつの理由があったのだそうです。実際、わたしが搭乗したフライトはクリスマスを控えて満席。隣の席はカナダ移民のメーヨー男性でした。
いいなと思ったのは、隣り合わせになった人たちがすぐにお喋りをはじめて機内ががやがや(笑)。以前はダブリン行きのフライトもこんな感じだったなーと思い出しました。今は外国人やビジネスで利用する人たちが増えたせいか機内は静かになった印象。
ノック行きは帰省列車のような高揚感にあふれ、そうだ、わたしもアイルランドに帰る移民だったと思い出しました(笑)。
隣の席と、さらにその隣の席のおばさんと3人で、機内で買ったドリンクで乾杯「Happy Xmas !!」
ダブリンを通過し、西へ向かう飛行機からずっと、眼下に広がるアイルランドの景色を眺められたのも初めての体験でした。

帰国の翌日から天気は大荒れ。海は白波がたって怖いくらいですし、強風は家を揺るがすかのよう。海鳴りと風の吠える音に「ああ、帰ってきた」と妙な安堵感を覚えたりして(笑)。
そんな中でもノックに着くフライトはキャンセルにならなかったようですが、遅れはあった様子。わたしはかなりラッキーでした。
クリスマスは若干おだやかさが戻りましたけれど、寒さも戻ってきました。とはいえ例年よりは暖かいですが、東京よりは寒いですっ。

ここのクリスマスは日本の元旦に似て、静かでおだやかな1日を家で家族と過ごします。東京の喧騒から離れたばかりなのでことさら、クリスマス休暇をしみじみと味わっております。
日本が元旦を迎える頃、アイルランドには普段の喧騒が戻ります。
来年はどんな風に生きようかな。
静かなときに、あれこれ夢想するのが大好き。

みなさまも、どうぞよいお年をお迎えくださいませ!!

大崎シャノンズにて。イベントをアレンジしてくださったフィドル奏者の小松大さんと。


必聴アイルランドのラジオ番組

アイルランドの音楽事情を知るのならラジオがいちばん。
わたしの音楽情報源はほぼ全部ラジオといってもいいくらい。今や世界中どこでも聞けるようになったのも嬉しい限り。リクエストはアイリッシュゆかりの地アメリカやオーストラリアをはじめ、ときどき日本からも。
Pod castでいつでも聞かれますから、ぜひお試しください。
まずはほぼ欠かさずに愛聴している番組から。

Late Date(RTE radio1)
https://www.rte.ie/radio/radio1/late-date/

フォーク&ロック、ときどきトラッド、古いジャズなど様々ですがセンス抜群。聞き始めて5〜6年ほど愛聴し続けています。

メインのプレゼンターはCathal Murry(カハル・マリー)。週末はホットハウスフラワーズのFichana O’Braonain=O’Brenna(フィークナ・オブレナン)。フィークナのピンチ・ヒッターをつとめるRay Cuddihy(レイ・クディヒー)。
カハルのスウィート・ボイスもすてきですが、何よりも彼の好みが驚くほどわたしと一緒。’90年代に彼が行ったコンサートの話などを聞くと、同じ時代に同じ場所で同じ音楽を共有していた模様。当時の彼はまだ10代だったそうですが……。
ピンチヒッターのレイ・クディヒーが登場して2年ほどかな。今いちばん好きなプレゼンターです。ばりばりのコーク訛りも好感度を高めています。彼はスライゴーのミュージシャン、シェイミー・オダウドやリック・エッピンの大ファン。LankumやYe Vagabonds など、ヒマールでもおなじみのグループの曲がしばしばかかります。
アンディ・アーヴァインの歌もしょっちゅう。先日は彼が在籍していたSweeny’s Menの「Sally Brown」が流れたのですが “あれ?Lankumのコーラスアレンジに似ている!?”とびっくり。Lankumのというよりはリンチ兄弟のコーラスがSweeney’s Menに大きく影響を受けている印象で。
と思っていた矢先にレイがかけたのがLankumの新曲。こういうオタクさがたまらなく楽しい。

ではここでSweeney’s Menの「Sally Brown」を。

この曲はのちにアンディが参加したPlanxtyで歌い継がれています。
楽しそうなのでこちらも。

Sweeney’s Menは正直ちゃんと聴いたことがなかったのですが、この発見であらためてちゃんと聴いてみたいと思いました。
Planxty の土台はアンディが築いていたと言えそうです。

別の日にかかったのは、UKのパンクバンド“ハーフマン・ハーフビスケット”。’90年代はじめのダブリンで、わたしの友人たちが愛聴していたバンドです。マークから教わって、結婚式でも流しました・笑
貴重なアルバムは’85年にリリースされた「Back in the DHSS」
もしもどこかで見つけたら絶対にgetしてください!必聴盤です。

長くなるので本日はこれまで。



アイルランドの夏2023

ヨーロッパの熱波もアイルランドまでは届かず、涼しい日々が続いています。世界各地で暑さ対策が叫ばれる中、ここではフリースを着込み、夜は気温が10度くらいまで下がる日もありヒーターを入れることも。
6月には雨の降らない日が2週間も続き、ファーマーたちは水やりに苦労していました。今は雨が連日続いていますけれど、作物もファーマーたちにとっても恵みの雨。降りっぱなし、止みっぱなしが交互に続くのはアイルランドの天候らしくありません。快晴が続いたときに雷雨を何度か体験しました。ここでは滅多にないことなのです。なんだか東京の夏みたいだなと思いました。地球温暖化、わたしの感覚では進んでいると実感しています。
フリーペーパー「アイルランドの風」もご好評いただいたまま今年はお休み。ブログの更新も滅多にしなかったので、忘れられてしまいそう。なので、久々の便りです。

最近、新たなお気に入りの街ができました。ウエストポート。
カウンティ・メイヨーにある観光地のひとつですが、毎日通いたいくらい何を食べてもおいしいビストロや、絶滅危機を逃れた懐かしのパブなど、居心地のよさ満点。チーフテンズのメンバー、マット・モロイのパブは有名でいつも混んでいますが、月曜日の夜に地元のミュージシャンのトラッドセッションを聴くことができました。
かつては“年金暮らしの人たちが出かける保養地”と思っていて関心がなかった街なのですけれど。待てよ、自分がそういうトシになったから居心地いいのかしら??
それだけではありません!“住みたい街No.1”に挙げられたと聞くし。
アイルランド人は基本フレンドリーですが、ウエストポートの人たちはさらに上をいく印象です。ホスピタリティーという枠を超えた地のままの人懐こさといったらいいのかな。どこに行っても会話が生まれて飽きることがないのです。

マークがほぼ月1回、仕事で通うのに便乗したのが始まりで、今や毎回くっついて行っております。彼が仕事している間はひとりで街歩きできるのも嬉しい。ずいぶん長いこと、ひとり旅をしていないので新鮮この上なし。

朝食もできるカフェがたくさんあるのでホテルの朝食はパスしてきたのですが、今回はインクルーズだったので試してみることに。そしたらこれが大当たり。メニューにキッパー(ニシンの燻製)があるっ!ほうれん草のソテーがあるのも得点高し。アイリッシュブレックファストのラインアップに緑野菜がないのはいつも少し不満だったのです。マッシュルームはポートベローとよばれるカサの大きなものなのも嬉しい。焼きトマトもつけてもらって豪華な朝食になりました。キッパーも身がほろっと崩れる、いい感じの燻製加減。あーキリッと冷えた白ワインがあったなら!
キッパーにオレンジマーマレードが合うと聞いたのは誰からだったろう。カリカリのトーストにマーマレードを塗ってキッパーをのせて食べてみると、ミルクティーが合うようになります。

おいしいものを求めて、旅は続く。

これもまたアイリッシュブレックファスト。イギリス流といっていいのかもしれませんが。ソースはベシャメルみたいなミルクっぽいもの。マッシュルームにからめていただきました。魚は絶品!


近況&ご報告

ご無沙汰ですみません。
思いがけず長くお休みしてしまいました。
珍しく少し体調不良でクリスマス以降2月いっぱい休養し続け、さすがにもう飽き飽き。命に関わる病いではないし、幸いゆっくり快方に向かい始めたので春の兆しとともに活動を再開したところです。
アイルランドはすでにマスクの義務化も取り払われました。ちょっと時期尚早な気がしているし、なによりあったかいのでまだわたしは着用していますが、同じ気持ちのアイルランド人も多いようでマスク姿は続いています。空港でのコロナ関連手続きも撤廃され、自由度が増した印象ですが、これはアイルランドが積極的に受け入れようとしているウクライナから逃れて来た人たちがスムースに入国できるよう考慮した措置。遠からず撤廃の気配でしたけど、少しびっくりの迅速さでした。
スライゴーにも戦火をくぐり抜けたウクライナの人たちが到着し始めています。このあたりはホリデーホームが多いこともあり、地方自治体から積極的な働きかけがあったようで、宿泊施設の確保が進んでいる様子。
スライゴータウンでは救援物資の準備に多くの地元民が手伝いに行っています。わたしはしばらく外出を控えていたので、すっかり出遅れて役立たず。来週は地元で寄付金集めのバザーが開催されるので、それはもうぜひお手伝い。アイルランド人の、助け合い精神の徹底ぶりにはいつも感心させられ、自分には何ができるのか自問を繰り返しています。

さて。
コロナによるロックダウンをきっかけにヒマールとともに始めた当ブログ。
2年が経ち、続けることも大切ですが繰り返しになってしまうのは避けたいし。ヒマールと協議の上「紙に戻ろう」という結論を出しました(おおげさ・笑)。
今、みなさんが手にとって読んでいただけるフリーペーパーを制作中。
完成したあかつきには、ヒマールのサイトとSNSでお伝えいたしますので、チェックしていてくださいませ。
春夏秋冬、年4回発行予定です。アイルランドらしい季節感を盛り込んだエッセイと毎回簡単レシピを2つお届けいたします。
このブログも、ときおりニュースがあったときなどに更新できるよう休眠ではなく“仮眠”状態で続けていきます。更新があるときは、やはりヒマールのサイトとSNSでお伝えしますので、お見逃しなく。

ウエブサイトで発信するのは迅速ですし、手軽ですし、プラス面は多いのですが、今わたしの暮らす辺境と日本との距離感のなさに違和感を持っているのも事実です。贅沢かもしれません。ふつう「距離がなくなって素晴らしい」と喜ぶ点ですもんね(笑)。
“せっかくこんな遠くにいるのだから、遠くであることをもっと意識していたい”と思ったのが、紙面=フリーペーパーづくりのきっかけです。
ニュースソースは限られますが、たくさん書けばいいということでもないと思っているので、限られた紙面でも充分に楽しんでいただけるようなものを作りたいと思います。

ではでは、引き続きどうぞご贔屓に!

PS:みなさんからのメッセージは、ひき続きこのブログあてにお送りくださいませ!



続・プーカと冬の嵐

 しばし間があいちゃってすみません。
 オイルタンクから聞こえてくるヴァン・モリソンの歌声の続きです。

 毎朝11時になると、あいかわらずタンクの中から声が聞こえてきます。
 流れてくるのは地元ラジオ番組「フランシー・ボイラー・ショウ」。そうか、ボイラーだからタンクの中か!と納得したら、マークに「残念だけど、ボイラーじゃなくてボイランです」よくある名字だそう。知らなかった。
 ここの大家さんは、ちょくちょく納屋やファームのメンテナンスに来るのですけれど、しばらく留守するとかでご無沙汰の時期に起きた出来事。用心深い人なので、きっとラジオにタイマーを仕掛けて「留守じゃないぞ」とアピールしてるのだろうと納得することに。でも、われわれがいるのに??
 そしてある朝、大家さんが納屋に置いてある薪を取りに来たとき「ラジオにタイマーかけていきました?」と聞いてみると「おお、ラジオ!なくしたと思ってたよ。タイマーって??」
 ラジオは、雨に濡れないようオイルタンクの陰から現れました。中じゃなかったのね。しかし、大家さんはラジオにタイマー機能があるのをご存知なかった……。
 それは大家さんが来る時間帯に合わせてあり「夜の11時じゃなくてよかったねー」と笑い合ったあとに気づいたのです。そういう可能性もあったのに、あえて午前11時。やはりプーカだったか……と確信したのでした。

The End ?

 話は変わって。クリスマスを控えた12月7日、アイルランドに台風が上陸しました。南西部コーク、ケリー、クレアが最初に直撃され、ゆっくりと北上し、スライゴーに到達したのは夜になってから。日中は比較的おだやかだったので「ここまで来ないんじゃないの?」と油断してたら、やってきました。
 キッチンは海の方に向いているし、換気扇から入り込む風の音でラジオのボリュームを上げないとならないほど。
 夜半からさらに風は強まり、部屋の照明がふーっと弱まるときがあり、停電するかも……と心配し始めました。念のために、いつもより多くのキャンドルを灯しておいたのは大正解。うたた寝して目が覚めると電気もラジオも消えており。
 おまけにバスルームは水浸し!幸いトイレからの水ではなかったのですが、部屋まで水がきたらどうしよう……停電はいつまで続くのか?ごはんは!?
 クッカーもオーブンも電気なので手も足も出ません。お茶も飲めないのか〜
 おにぎり作っておくべきだった、と反省しながら寝直したのですが、幸い翌朝、電気は復旧しました。まだ停電が続いている地域も多かったので、うちはラッキーだったようです。バスルームの水も引いていました。前の家だったら、どこも雨漏りでえらい騒ぎだったと思います。
 強風は翌日の夕方になっても勢いが衰えず、今までここで体験した風雨の中ではダントツに激しかった。家の中で聞いているだけで、なんだかひどく疲れました。レスキューの人たちや、電気工事の人たちは、ほんとうにたいへん。

 そんなこんなで、レシピのご紹介はもう少しお時間くださいませ。
 火を使わない料理を研究しておかなくちゃ!と考えています。

非常食としてとっておくべきだったポテトブレッド。マーケット仲間のコーリーン作で、すっごくおいしいんです。人気商品で、いつもあっという間に売り切れ。バターで焼き直すとカリカリに。やはり停電中には向きません〜〜


プーカの来訪

 突然ですが、引っ越しをしました。
 拙著『アイリッシュネスへの扉』をお読みくださった方々は「ええーーっ??」と驚かれると思いますが、わたしとマークにとっても突然な成り行きで。でも結果的に、心地よい家で快適な暮らしをスタートさせることができ、新たな扉を開くことができました。今度の家は、ファームハウス。大家さんはシープ(羊)ファーマーですが、セミリタイアしていて家畜はいません。でもここは今も“ワーキング・ファーム”。大きなトラクターを間近で見られる機会がついにやってきました。
 ここでアイルランドに関するクイズです。この国の収穫高ナンバーワンは何だと思われます?じゃがいもって答えたくなりますよね?
 実は「草」。家畜の飼料となる牧草なのです。ここのファームも大きな納屋に干し草が積まれ“現役”ファームであることを物語っています。
 家は大家さんの実家で、祖父が建てたもの。今はモダンに改装されていて暖房もばっちり。わたしにとっていちばん大事な台所も機能的でとても使いやすく、安堵しています。
 新居がマイホームになる瞬間に気づきました。この国の住居の鍵は、どこもクセがあって慣れるのに一苦労。常宿にしていたB&Bの玄関の鍵もなかなかひとりで開けられず、何度かネグリジェ姿のおかみに助けてもらって、おおいに恐縮したものです。
 この家の鍵もご多分にもれず。ちょっとしたコツをようやく覚えたばかり。もうひとつの“難関”はオーブンです。この国の借家(アパート=フラットも含む)の付帯設備のひとつがオーブン。これは大家さんが管理すべきもののひとつなのだそうですが、わたしの使用頻度は尋常でなく、これもまた恐縮の極み。今までに4台のオーブンをお釈迦にしており……“経費でまかなえる”ということなのでしょうけれど、かなり気が引けます。
 そんなわけで、まずはどの借家にもあるオーブンですが、どれも使い勝手が異なり、慣れるのに少し時間が要る場合も多々。前の家にはオーブンが2台あり、1台はサーモスタットがイカれていて、ほうっておくと200度以上まで上がり、何度かケーキを焦がしました。
 今回はふつーにほどよく焼けて、安堵。オーブンと鍵、どちらもアンダーコントロールで、家は早々に「我が家」になりました。

 さて、プーカ(おばけ)の来訪について。
 引っ越して早々、台所の窓を開けると裏庭で誰かの喋り声が。大家さんが納屋を修復しているので、来ているのかな?と見に行くと誰もおらず。話し声はラジオであることに気づき、納屋の中に忘れて行ったのねと納得したのですが。
 外出していたマークに顛末を告げると「そんなわけない、ラジオは見つけてオフにした」。うそ。でも聞いたもん、ラジオから流れる番組。
 そういえば、いつのまにか音は消えていた……

 そして翌日。やはりマークの外出中に外で音楽が。確認に出動しました。
 裏庭に流れるのはヴァン・モリソンの曲で、それはなんと暖房用のオイルタンクの中あたりから響いており!
 プーカの仕業にちがいない。
 わたしは家に戻ってきっちり鍵をかけました。

続く

PS:この家で初めて作った「ベーコンの炊き込みごはん」がとてもおいしくできたので、ご紹介しますね〜〜

「ベーコンの炊き込みごはん」

【材料】2人分
米 1カップ半
オリーブオイル 小さじ1
にんにく 2カケ スライス
ベーコン 厚切り2枚
焼酎(お酒ならなんでも) 大さじ1 オプション
たまねぎ 半分 みじん切り
しょうが 1カケ みじん切り
にんじん 2〜3cm の角切り1カップ
カブか大根 2〜3cmの角切り1カップ
長ネギ スライス 1カップ
生タイム 2本ほど
塩 小さじ1/4
しょうゆ 小さじ1
水 2カップ

【作り方】
1.米をざるに入れて洗い、水をきって30分ほど置く。
2.厚手なべにオリーブオイルとにんにくを入れて火にかける。
3.ベーコンを入れ、焼き色がついたら取り出し、適当な大きさにスライス。
*取り出す前に焼酎を加えて少し煮詰めるとベーコンがやわらかくなります。
4.たまねぎをさっと炒め、ベーコンを加え、さらにしょうが、にんじん、カブか大根、長ネギ、米、水を加える。塩、しょうゆを足し、上にタイムをのせて蓋をし、強火にかける。
5.沸騰してきたら弱火にして15分炊く。
6.一度強火にして半秒ほど待ち、火をとめて10分。

★5の時点で一度蓋を開けてみて、水っぽいようならもう1〜2分、火にかけてください。

 いつもながら大雑把なレシピで恐縮ですけれど、おいしかったので!きのこや、ほうれん草やいんげんなどを入れるといいと思います。
 ベーコンは、脂身の少ないステーキ用がベスト。加工肉は極力使わないようにしているのですけれど、上質なものをたまにはいいかなと思っています。



土曜のランチ

 拙著がオフィシャルに出版され「届きました」や「半分読んだー」などなどメールがわんさか。ひさかたぶりの”声”も多く、返信も長くなりがちで、先週はずっとパソコンの画面に向かっておりました。なので今回のブログはレシピなしでごかんべんください。そのかわりというのもナンですが、毎週土曜日の昼食風景をご披露いたします。
 土曜日はオーガニックファームに焼き菓子を納品し、オーダーしていた野菜をピックアップする日。金曜日は丸1日、焼き菓子作りに追われるので、土曜日はその開放感もあり、採れたての新鮮野菜と、アンの作る自然酵母パンの、シンプルだけれど最高のごちそうを楽しみます。
 ここに引っ越してきて、お皿に並ぶ食材に、それぞれ「だれそれさんの」と生産者の名前がつくことに気がつきました。
 たとえばこの日。ジェリー・バーンズのビーフ、エイダンのサラダリーフとズッキーニ、アンのパン。すてきでしょう? ときには、ジョニーのサバや、ジェイソンのポロック(スケソウダラ)、ヤスミンのレタスと卵なども。新たに加わったのはエルカのアップルジュース。エルカからも卵をいただいた。サイダー(シードル)作りのためにおすそわけしたリンゴのお返しで。
 日曜日にマーケットがある週は、ここにイーアンの野菜や最近やみつきになっているコーリーンのチリジャムなども肩を並べます。生産者が異なると同じ野菜でも味がちがうので、エイダンとイーアンのじゃがいもの食べ比べなど楽しみも倍増。
 ポロックは身がくずれやすいので、まだ調理になれませんが、大きなタラよりも味が繊細で新たなお気に入りの魚になりました。ジェイソンが自分で釣って、きれいにさばいてきてくれるので大助かり。耳よりな情報も。
「タラは大食いで、腹をさばくと中からヨーグルトのパックとか出てくるんだぜー。その点ポロックはお上品でね、食べるものを選ぶから内臓美人」
 フィッシュ&チップスといえば、たいていはCod(大きいタラ)を使いますが、最近ポロックを使うレストランを発見。値段が安いこともあるのでしょうけど、理由はそれだけではなさそうです。
 上記の人たちのほとんどは、拙著新刊の登場人物ですので、合わせてお楽しみくださいね。おっとエルカはここで初登場。去年までクリフォニー・カントリーマーケットのメンバーでした。今はお客さんとしてやってきます。彼女のだんなさんは趣味でリンゴの発泡酒サイダー(シードル)を作ると紹介されたのが去年の秋の終わり。残念なことに、庭のリンゴのほとんどは使い切ってしまっていて「来年は必ず」と約束していたのです。すでにやってきた「来年」。今年は大豊作だったので、助けて〜〜とリンゴもぎに来てもらいました。
 次に、わが食卓を飾るのは手作りサイダー。週末にエルカのファミリー総出で収穫したリンゴがお酒になって帰ってくるのです。
 まさしく、わらしべ長者の気分!

エイダンのサラダリーフ(エディブル・フラワー入り)とズッキーニのソテー、ジェリー・バーンのビーフステーキ。味付けは赤ワインと醤油。たまねぎもエイダンのだった。じっくりソテーして、さらにフライパンのわきに寄せてビーフの肉汁をたっぷりすわせます。マッシュルームはアイルランド産でオーガニックですがスーパーで買ったもの。シーズンオフでもありますし。
アンの自然酵母パン生地で作ったフォカッチ。じゃがいもがのってるのはご愛嬌ですが、彼女の育てた作物です。まだ小さいのでトッピングにしたのだそう。

<編集部より>
松井ゆみ子さんの新刊「アイリッシュネスへの扉」、9月1日に発売となりました。
通販でのお求めはヒマールのオンラインストアにて、ぜひどうぞ!
お読みになっての感想など、こちらのブログのコメント欄にぜひお寄せください。



ついに出版!「アイリッシュネスへの扉」

 早々にご予約くださった方々は、すでにお手元に届いていると思います。まだ刷り上がってもいない時点でご購入くださって、恐縮しております。

 アイルランドに到着するのはいつかしら??
 ヒマールの辻川純子編集長が、速攻で発送してくださって。ポストカードのときと同様、北アイルランド在住の「O’Bento」本の編集者シボーンあてです。日本とアイルランド共和国間の郵便事情はまだ改善しておらず、イギリス圏の北アイルランドへの郵便はずっと早く届くので。待ち遠しい〜〜
 でも、多少のタイムラグがあってよかったのかも。本は、出版されると同時に著者のものではなく、読者のものになるのだと誰かが言ってましたけれど、ほんとうにそのとおりなんです。できあがった拙著を見て「え? 誰が書いたの?」という感じで、実感がわかない。
 友人が「本を作るって、出産みたいなものよね」って言ってくださったのですが、産んだ途端に成人して家から出て行っちゃう感じ。なんだかネガティヴに聞こえることを書いちゃいましたけれど、強調します。拙著はみなさんのものになりました。お楽しみいただけたら嬉しいです!!!
 で、タイムラグ。忘れた頃に届く拙著に「わー、できた〜〜」って、無邪気に喜べたらいいなと思って。

 そして、なんと。5年がかりで制作していたレシピ本「O’Bento」も、今印刷にとりかかっています。2冊同時刊行は人生初。狙ってできるものではありません! なんせ日本とアイルランド2カ所で、ばらばらに取りかかっていた作業ですから。
 たくさんの方々に読んでいただくための努力をしつつ、次の本にとりかかれる喜びを密かにかみしめてもいます。

 ツイッターに、拙著新刊が出ると思わなかったってコメントがあり、ちょっとショックでした。17年かかっちゃいましたけど、出す気は満々でしたので(笑)。

 ご感想、ご意見、どうぞ遠慮なくお寄せください。お手やわらかに〜

通販でのお求めはこちら



ごあいさつ

 ヒマールのサイトで”発表”! されましたように、拙著「アイリッシュネスへの扉」が9月1日に発売されます!!

ヒマールのオンラインストアにて、特典付きのご予約販売開始されました!

 エッセイ本を出すのは、なんと17年ぶり。レシピ本を2013年に出していますが、それだってもう8年前。書籍の制作は時間がかかるので、そんなに次々と作れるものではないですし、そもそも本を作る機会に恵まれたこと自体が幸運なことなので、じっくりと取り組みたいといつも思います。
 今回の新作は、ヒマールのじゅんこ編集長と「作りましょう!」のGoサインが出てから2年足らずで完成したので、あれ? 今までの拙著のなかではかなりのハイスピードかも。
 前にも書いたような気がしますが、今までの拙著はプランに何年か要し、出版社にプレゼンテーションし、運良く企画会議に出してもらって、そこからいくつもの難関(編集会議、営業会議、会社トップの決断)を数ヶ月かけてくぐり抜け「出しましょう」の嬉しい快諾をいただいてから原稿を書き始め(レシピ本のときは料理撮影。これがまたわたしひとり作業なので、調理、スタイリング、撮影をちまちまこなすのに1年半を要した気が。買い出しがいちばんたいへんでしたが・笑)そのあとにデザインワークが始まり……と軽く1年がかりの作業です。楽しいんですよ! すべて。チームでの作業が始まると特に新鮮で。
 校正を何度も繰り返して「これで完了、印刷屋さんに回すのみ」を迎えるのは、嬉しくもあり、ある意味いちばん不安なとき。は、わたしだけかしら? 出かける前に、家中の鍵を閉めたにもかかわらず、見落としがある気がしたりしませんか? あれと同じ。
 じゅんこ編集長に「お疲れさまでした! これにて終了」と言われたとき、嬉しさよりも寂しさの方が大きかった。
「自分の本を見るのは、エキサイティングよね!」と誰にも言われるのですが、「え? この本誰が書いたの?」という幽体離脱のような気分。
 こういう一種の虚脱感を打開する手はひとつだけ。次の本に取りかかる!
 いつもスタートは、出せるかどうかもわからない「本」をひとりでプランして、作業を始めます。たいてい、これが「たたき台」になってくれるので、まずは作り始めないと。あ、何か「やってみたい」と思っていることがあったら、夢想も大事ですけど、着手するのが早道です。きっぱり!
 ひとりで構築するうちに上達もするし、誰かが気づいてくれる機会が増えるし、可能性が広がるのはそこから。
 今までの拙著は写真が多く、読者の方から「3時間で読み終えちゃいました」と、それは「面白かった」のかわりに言ってくださった言葉だったのですが、次にいつ出せるかわからない本なので「ゆっくり読んで!」と答えた気がします。が、今回はずっと憧れていた”文字ばっかりの本”。写真も少しは入れていますが、基本”読み物”です。自分で書いたものでも、校正時に数日要しましたから、秋の夜長にゆっくりお読みくださいね!
 やっと書けた「硬派」な本です。が、わたしのテイストですから爆笑エピソードもお楽しみいただけると思います。

 前置きが長いのは、クールじゃないので切り上げます~

 次回のブログでは再びレシピをご紹介いたしますね。
 夏野菜の使い方がテーマです。旬のズッキーニの焼き菓子も!

夏の庭。裏庭ですが、まるで空き地を借りて洗濯物干しているようにしか見えませんよね〜。左の木はりんごです。今年は豊作になりそう。こんな庭を眺めながら書いた新作です。



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