こんな自分になるとは、思ってもいなかった。
毎日なにかを編んでいる。
手をのばせばすぐに編める編みかけのものがないと落ち着かない。
編んでいるものを3分の1くらいまで編み進むと、もう次に編むもののことを考えている。
糸は常にストックしておきたい。
幸いなことに、多くの編み物中毒の方々がたんすの引き出しを糸でいっぱいにしてしまいがちなところ、わたしには店の棚があるのでだいぶ安心して(?)ストックできる。店をやっていてよかった。
すてきな糸を見つけるとさほど悩むことなく仕入れ、棚をながめては「あれでなにを編もうかな」と毎日考えている。
もちろん売れてほしい。でも売れなかったら、もうちょっと置いておいても売れないようだったら、さすがにもう売れないかなと思ったら、編んでしまえばいい、と思っている。あまりいいことではないですが(苦笑)。
学生時代以来40年ぶりくらいに編み物を再開したとき、そこまで知識や技術がないから、ということもあるけれど、自分の性質的には本を見たりキットを買ったりしてそのとおりにきっちり編むタイプだろう、そういうふうにしか編めないタイプだろうと思っていた。
ところがどっこい、だった。
きっかけはたぶん、韓国のメーカーから糸を仕入れようと問い合わせたら、サンプルとしていろんな糸がたくさん送られてきたこと。個性的な糸が多かったので、これはただ糸を並べてもよくわからないんじゃないか、編んだらこんなふうになりますよというサンプルがあったほうがいいんじゃないか、と思い、無料でもらった糸だし〜と気軽にサンプルを編んでみたあたりから、「あ、これでもいいんじゃん、編み物」と思うようになった。
ほどけば何度でもやり直せるのが、気軽にチャレンジできるポイント。ダメージはほぼない。ほどけるわたしは無敵だと思った。
50年以上生きてきて、いままでこれほどなにかに夢中になったことはないんじゃないかな。30年以上いっしょにいる夫も、こんなわたしは初めて見る、と証言している。
長いこと大勢の才能あるクリエイターたちに囲まれて過ごしてきて、彼女ら彼らに憧れつつ、自分にはあんなふうになにかをつくる力はないけれどそれを見つけて届ける力はあると信じて、店の運営や本の編集の仕事をしてきた。
ただ編み物に夢中になっただけで、クリエイターになったわけじゃないけれど、「ものづくりできる自分」を発見して嬉しい。編み物、楽しい。