2月の読むロバの会(オンライン読書会)開催中!

こちらは「読むロバの会(オンライン読書会)」の会場です。
日々のブログの更新は、ひとつ下の投稿から始まります。

読んで書く、文章に親しみ愉しむ読書会です。
本を読んで感じたこと、考えたこと、それを言葉に、ましてや文章にするのはなかなか難しいかもしれませんが、どうぞ気軽に書いてみてください。

2月の「読むロバの会(オンライン読書会)」
テーマは……
「菓子/スイーツ」

2月末までの1ヶ月間、上記のテーマで選んだ本について、このブログのコメント欄に書いていってください。

過去に読んだ本から選び、オススメ紹介文を書いてもよし。
テーマをもとに自分自身の今月の一冊を選んで、読んだ感想などを綴ってもよし。
匿名でもOK。
何度書いてもOK。
誰かのコメントに返信してもOK。
書き方は自由です。
ヒマール店頭でも、今月のテーマで本をセレクトして並べますので、よかったらチェックしにいらしてください。

ご参加をお待ちしています!

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2月の読むロバの会(オンライン読書会)開催中!」への23件のフィードバック

  1. ヒマールじゅんこ 投稿作成者

    「ニューヨーク製菓店」
    キム・ヨンス(著)/崔真碩(訳)/クオン

    ニューヨーク製菓店は、ニューヨークにある製菓店ではなく、韓国の金泉市に実際にあった製菓店で、著者キム・ヨンスの実家。これは著者の自伝的小説だそうです。

    「昔も今も、私がニューヨーク製菓店の末っ子だったという事実を知った人々の反応はいつも同じだった。みんな『パンだけは思う存分に食べたろう』という。その羨ましそうな表情を見る時だけは、財閥二世にでもなった気分だった。」

    製菓店で作って売っていたのは、あんパン、クリームパン、餡餅、ドーナツ、カステラ、牛乳食パン。クリスマスにはもちろんクリスマスケーキ。店内には買ったパンを食べていけるテーブルがいくつかあって、夏にはかき氷も売った、と。以前観た「ユ・ヨルの音楽アルバム」という韓国映画にそんな感じの店が出てきて、ニューヨーク製菓店はその映画の店よりはだいぶ広そうだけれど、ああいう店なんだろうなと思い出しながら読みました。

    「オーブンに入る前の生地とオーブンで焼けたパンは同じ物質と見ることができないほどだった。パンが焼ける様子を私は何回くらい見ただろうか? 五百回くらい見ただろうか、千回くらい見ただろうか? しかし、見るたびにそれは奇跡のようだった。あんなことが人にも可能であれば、私はすぐさまガスオーブンに入ってニューヨーク製菓店の末っ子からアメリカ・ニューヨークの実業家の子供としてもう一度生まれ変わったのに。」

    グローバリゼーションで大企業が経営するチェーンのベーカリーが金泉にも進出しはじめ、昔ながらの製菓店は消えていきます。

    「ニューヨーク製菓店は、私たち三人兄弟が子供から大人に育つまでの間に必要なお金と母親の手術費と入院費と薬代だけを作り出して、その生命を終わる時を迎えた。」

    この本は、日本語訳と韓国語原文の両方がおさめられた、クオンの「きむ ふなセレクション 韓国文学ショートショート」シリーズのごく薄い一冊。キム・ヨンス初期の代表作だそうで、短編作品ですが読後の余韻がなんとも長く、キム・ヨンス作品をもっと読みたくなっています。

    返信
  2. 大久保

     こんばんは。今月も魅力的なテーマですね!

     さて、ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』最初の日本語訳『愛ちやんの夢物語』(丸山薄夜訳、1910年)では、タルトが「栗饅頭」に「翻訳」されています。第11章は「栗饅頭の裁判」。「其上には栗饅頭の大きな皿が載つてゐました」などなど…。
     たしかに明治時代の日本の子供には、「タルト」のままでは分かりづらかったでしょう(そもそも主人公の「アリス」も「愛ちやん」になっているし)。とはいえ、たとえばカスタードは「牛乳と鶏卵とに砂糖を入れて製したるもの」、トッフィーは「砂糖と牛酪[バター]で製して固く焼いた菓子」と注をつけて、そのままカタカナ表記しているのです。なぜタルトだけ「栗饅頭」に化けたのか。そして和菓子もいろいろある中で、なぜ訳者は「栗饅頭」を選んだのか……。謎は尽きません。

    *『愛ちやんの夢物語』は『不思議の国のアリス  明治・大正・昭和初期邦訳本復刻集成』(全4巻、エディション・シナプス、2009)で読むことができます。

    返信
    1. ヒマールじゅんこ 投稿作成者

      『愛ちゃんの夢物語』、知りませんでした!

      「栗饅頭」、いっしょにあわせて焼き上げるところ、ひとつのお菓子だけれど生地とフィリングがはっきりわかれているところなど、なるほど、タルトと共通点があるといえばあるような。
      和菓子でたとえるなら「最中」か? とも思いましたが、あれは生地とフィリングをあわせて焼き上げることはしないですもんね。
      でも、トッフィーはトッフィーのままで注をつけるのならば、なぜタルトも注での説明にしなかったのでしょうか? 今やタルトは誰もが知っているかと思いますが、トッフィーは今でも説明されないとわからない人が多いようにも思います。

      明治時代の翻訳、おもしろいですね。

      余談ですが、大久保さんで和菓子といえば「栗蒸し羊羹」!思い出します。ありがとうございました!

      返信
  3. 大久保

     栗蒸し羊羹! もうずいぶん前になりますね。次の秋、店頭に並んだら、またお送りします。

     さて、タルトが栗饅頭に化けた明治時代、子供だった森茉莉が食べていたお菓子について。
     
     「想い出のお菓子。それは静かな明治の色に沈んでいる紅白、透徹った薄緑、黄色、半透明の曇ったような桜色、なぞの有平糖の花菓子。
     大きな真紅いボタン、淡紅の桜の花、尖端が紅い桜のつぼみ、緑や茜色を帯びた橄欖色の葉。薄茶色の木の枝には肉桂の味がいた。紅白で花のように結ばれた、元結いの形のも、あった。
     それらの花束は細く長い、青白い母の掌の上に、半紙にのせられて咲き香っていた。一回分のおやつとして母はその中の桜の二三輪とか、牡丹の花片の幾つか、というように折って私に、与えた。硝子戸越しの午後の陽の光に、桜の淡紅、葉の緑、牡丹の真紅、なぞが、きらきらと透徹り、ヴェネツィア硝子か、ボヘミア硝子の、破片のように光った。
     失われた時を求めて、過去を自分の掌でさわり、たしかめ、ふたたび現在の中に再現しようとした、素晴らしいフランスの作家の、マルセル・プルーストが愛した、彼が幼時に母親や叔母の家で味わったプティット・マドゥレエヌ。有平糖は私のプティット・マドゥレエヌである。」

     「お菓子の話」(『貧乏サヴァラン』ちくま文庫、所収)の冒頭部分です。舌だけでなく、目で、耳で、掌で味わうお菓子の記憶。このエッセイを読んで有平糖というものを知り、気になりながらも結局今に至るまで食べていないのは、森茉莉の描写だけで満足してしまったからかもしれません。

    返信
  4. 大久保

     米澤穂信の小市民シリーズ――『春期限定イチゴタルト事件』『夏期限定トロピカルパフェ事件』『秋期限定栗きんとん事件』『巴里マカロンの謎』――は、タイトルからもわかるとおり、スイーツが重要な役割を果たすミステリーです。
     『夏期限定トロピカルパフェ事件』の第1章「シャルロットだけはぼくのもの」がおすすめです。長編の一部ですが、独立した短編として楽しむことができます(実際、いくつかのアンソロジーにも収録されています)。
     暑い夏の日。同級生の小山内さんにケーキ(マンゴープリンとシャルロット)のお使いを頼まれた「ぼく」は、彼女が席をはずしている間に、三個あるシャルロットのひとつを食べてしまいます。そのあまりのおいしさに陶然とした「ぼく」は、一個多く食べるために、最初からシャルロットが二個しか存在しなかったかのように偽装工作をします。小山内さんが部屋に戻ってくると、素知らぬ顔で、初めて食べるふりをしてシャルロットを口に運ぶのですが……。
     犯罪ではなく「ケーキをこっそり食べた」という話。しかも登場人物は高校生二人、舞台はマンションの一室、全体で30分もかからない。たったこれだけの材料から魅力的なミステリーを仕上げた作者の腕前に驚きます。

    返信
  5. ちせ

    氷室冴子『クララ白書』(集英社文庫コバルトシリーズ 1980年)

    徳心学園中等科寄宿舎であるクララ舎に、三年生になって
    中途入舎してきた生徒は、三年生部会から与えられる課題を
    果たさなくていけない。
    というわけで、桂木しのぶは紺野蒔子、佐倉菊花とともに、
    調理室と食糧庫にしのびこんで45人分のドーナツを作る、
    という課題に挑んでいくーーー。

    明るい調子、弾むようなテンポで、どんどん読みたいだけ
    読める、まんがと同じように読める小説に出会ったのは
    これがはじまりだったな、と今になって思う。

    作中に「くるみ屋のシフォンケーキ」というものがでてきて、
    当時はシフォンケーキなんて見たこともきいたこともなかった
    ことを思い出す。
    くるみ屋はいまもあって、こんど札幌(あるいは明石)に
    行ったら絶対にシフォンケーキを食べてみたい!と気持ちは
    盛り上がるものの、いったいいつになることやら……。

    返信
  6. ヒマールじゅんこ 投稿作成者

    大久保さん、栗蒸し羊羹、催促したようで、すみません(苦笑)。
    森茉莉の有平糖についての文章、ほんとうに美しいですね。

    さて、そういえば『若草物語』『赤毛のアン』など、いわゆる少年少女世界文学全集のようなシリーズにおさめられていた海外文学には、(ちせさんのシフォンケーキのように)当時はどんなものなのかわからなかったけれど食べてみたかった、そんなお菓子がたくさん登場していたな、と思い出して、こちらを読んでみました。

    『台所のメアリー・ポピンズ』
    P.L.トラヴァース(作)/メアリー・シェパード(絵)/小宮由、アンダーソン夏代(訳)
    アノニマ・スタジオ

    「おはなしとお料理ノート」という副題のとおり、前半は、おなじみのメアリー・ポピンズの登場人物たちが出てくる物語、後半は、イギリスの伝統料理とお菓子57品のレシピ、という一冊です。
    おはなしのほうは、メアリー・ポピンズが乳母として働くバンクス家で、両親が旅行に出かけるという日の朝、料理番のばあやが急に親戚の家の世話をしに行かなければならなくなり、ちょうど女中も休暇中、これから1週間、5人の子どもたちとメアリー・ポピンズだけで過ごさなければならないけれど、メアリー・ポピンズは乳母なので子どもの世話は問題ないとして、ごはんはどうする!?……というところから始まる1週間のおはなしになります。
    メアリー・ポピンズの知り合いたちが入れ代わり立ち代わり、日帰りでやってきて、一緒にいろいろな料理を作るのですが、それがとっても美味しそう! 必ずデザートつき、というのも魅力的です!
    例えば
    月曜は、ローストビーフ、ヨークシャー・プディング、ゆでキャベツ、「星型ジンジャーブレッド」。
    火曜は、羊飼いのパイ、にんじんのバター炒め、マッシュドポテト、「りんごの重ね焼き」。
    水曜は、アイリッシュ・シチュー、「さかさまケーキ」。
    などなど。これらはDinnerですが、日本でいうところの昼ごはん。Breakfast=朝ごはん、Dinner=昼ごはん、Supper=晩ごはん、となっていて、Supperは軽めのごはん。でもやっぱり、レモンゼリー、ジャムタルト、アプリコットのピュレなど、デザートがついています。いいなあ。
    (たまたま最近、アイルランドの寄宿学校の食堂のメニューを見る機会があったのですが、そこでも昼ごはんがしっかりたっぷり、夜は軽食、でしたが、必ず甘いものがあるようでした!)

    1週間分のレシピがついているので自分で作ることはできるのですが、おはなしの中でバンクス家の子どもたちが食べているものが、やっぱり美味しそうに感じられます!

    返信
    1. ちせ

      レモンゼリーといえば、あしながおじさん!
      プールいっぱいのレモンゼリー、想像しただけで唾液が……。

      こどものころ読んだアガサ・クリスティの『クリスマス・プディングの冒険』。
      内容はぜんぜん覚えてないけど、「クリスマス・プディング」って何だ?と
      思ったことだけは覚えています。

      返信
      1. ヒマールじゅんこ 投稿作成者

        プールいっぱいのレモンゼリー、唾液が〜。

        クリスマスのお菓子では「ミンス・パイ」も、なんだろう?食べてみたい!
        と思ったものです。「若草物語」はじめ、たくさんのお話で読んだ記憶があります。

        返信
        1. 大久保

           子供のころ実物を知らず、翻訳小説を通じて想像するだけだったお菓子といえば、「ボンボン」や「ヌガー」がそうでした。「ボンボン」は『若草物語』にも出てきたような気がします。

           お菓子と翻訳といえばもうひとつ。最近、たまたまチェーホフ『桜の園』を浦雅春訳(光文社古典新訳文庫)で読み返しました。甘党のガーエフという男が出てくるのですが、

           ガーエフ (ドロップを口に放り込んで)私はドロップで財産をつぶしたと言われているよ……。(笑う)

           この「ドロップ」を、かつて神西清は「氷砂糖」と訳しています。

           ガーエフ (氷砂糖を口に入れて)世間じゃ、わたしが全財産を、氷砂糖でしゃぶりつくしたと言っているよ……(笑う)

           寒いロシアのイメージと結びついていたためか、神西訳の「氷砂糖」の印象が強く、新訳(読みやすく、いい翻訳です)の「ドロップ」に、少しだけ違和感を覚えたのでした。

          返信
  7. ちせ

    雪舟えま『バージンパンケーキ国分寺』(集英社文庫 2019年)

    こちらも、『クララ白書』と同じ流れに足をひたして読める小説。
    くもりの日にしか訪れることのできないパンケーキ屋を舞台にした
    連作短編集です。
    世界もひとも、多様なのは言うまでもなく、多面的でもあり多層的
    でもある、ということを描いています。
    多層的、ということで、想像するだけでも楽しい独創的なパンケーキが
    たくさん出てきます。
    「ソーダ・ゼリー・ホイップ」「キャラメル・ベリー・UFO」
    「レインボー・エナジー・ソース」「フルーツとナッツのタンバリンケーキ」
    「テンプル・ライト・ライト・フォレスト」「プライベート・プラネット」
    などなど。巻末にそれぞれ説明書きがついています。
    食べたいような、食べたくないような……。

    作者は歌人でもあります。
     
    おとな、とは冷蔵庫の光のなかのひとつっきりの綺麗なケーキ

    返信
    1. 大久保

       パンケーキのメニュー、眺めているだけでおいしそうですね。洋菓子店を舞台にした連作短編は、小説にも漫画にもいろいろありそう。

       ところで、僕が子供のころは「ホットケーキ」が一般的で、「パンケーキ」はかなりあとになってから(「スパゲッティ」が「パスタ」になったころ?)普及した気がします。それが証拠に、『ぐりとぐら』(中川李枝子・作/山脇百合子・絵)では、どう見ても完璧なパンケーキが「カステラ」と呼ばれているのでした。

       さて、実物は別として、本の中でいつ「パンケーキ」に出会ったのか。記憶を頼りに本棚を眺めていて、アストリッド・リンドグレーン『長くつ下のピッピ』(大塚勇三訳)を見つけました。第1章で、ごたごた荘に引っ越してきたピッピは、隣家のトミーとアンニカにパンケーキを作ってふるまうのです。
      「さて、パンケーキの片がわがキツネ色に焼けますと、ピッピはそれを、上にほうりあげました。半やけのケーキは、天井ちかくまでとびあがって、空中でくるっとひっくりかえって落ちてきますと、ピッピは焼き板でうまくうけとめました」。
       子供のころ読んだときは、これをパンのようなケーキだと解釈し、ホットケーキと同じものとは思っていなかったのでしょう。キツネ色、というのは、パンケーキにつきものの形容ですよね。

      返信
      1. 匿名

        懐かしく読み返していると、2章ではピッピは「ショウガ入りクッキー」を作っていました。これも「外国のおはなし」で初めて知ったお菓子です。

        返信
  8. ちせ

    千早茜『西洋菓子店プティ・フール』(文春文庫、2019年)

    西洋菓子店を舞台にした連作短篇、あります。これです。
    祖父の営む西洋菓子店で働く亜樹と、その周囲のひとびとの物語。
    各編には「グロゼイユ」「ヴァニーユ」「カラメル」「ロゼ」
    「ショコラ」「クレーム」というタイトルがつけられ、最初と
    最後は亜樹、他はそれぞれ違う人物が一人称になって描かれて
    います。
    最初にこの本を読んだあと、亜樹が作ったり語ったりしているような
    本格的なフランス菓子を食べてみたくて、いつもなら絶対選ばない
    ようなケーキや焼き菓子を試してみたりしました。
    とにかく好奇心をそそられるスイーツのオンパレードです。

    この作者の作品を読むと、もっと奥の奥、深いところまで描けるはず
    なのに描かれていないせいで、妙なところでぷかっと浮いたような
    気分になるのがいいなあ、と思う。

    返信
    1. ヒマールじゅんこ 投稿作成者

      「グロゼイユ」? と思って調べてみたら、レッドカラント、赤すぐり。
      フランス語になると、なんというか印象が変わって感じられます。
      「ヴァニーユ」も素敵。

      返信
  9. 大久保

     尾崎翠「アップルパイの午後」(1929)。
     登場人物は「妹」「兄」「兄の友達」の三人(と、名前だけ出てくる妹の友人・雪子)のみ。「懶い日曜」の午後の一幕を描いた、文庫本で20ページ足らずの短い戯曲です。
    同居する兄に、「どこまでチョコレエトなのよ」と食ってかかる妹。他愛ない兄妹げんかが、兄の友達の松村がアップルパイを手土産に現れると、あれよあれよという間にハッピーエンドを迎えます。最後のセリフは松村の、「なんて惜しいことをするんです。甘いほど好いんだ」。

    返信
    1. ヒマールじゅんこ 投稿作成者

      「どこまでチョコレエトなのよ」は、考えが甘い、みたいなことなんでしょうか?

      返信
  10. ちせ

    長野まゆみ『お菓子手帖』(河出書房新社、2009年)

    1959(昭和24)〜1988(昭和63)年の「菓子年譜」として書かれた小説のような記録のような文章。
    とにかく懐かしいお菓子に関する記述が盛りだくさん。

    たとえばこれは1972年、
    「そのころ、明治製菓のチェルシーに人気があつまった。バタースカッチとヨーグルト味の口どけが
    なんとも魅惑的で、金髪の少女がカタコトの日本語で「あなたにもチェルシーあげたい」とささやく
    コマーシャルで名をはせた。箱は当時のサイケデリックの流行をとりいれたイラストで、黒地にあざ
    やかな柄がえがかれていた。
     四角いけれども、角がまるくなったかたちゆえに、のみこむには大きすぎるうちに、うっかりする
    とつるんとのどをとおってしまうので、要注意のキャンディでもある。食道を通過してゆく感覚が、
    いつまでも消えないのは困ったことだった。」
    わかります。チェルシー、何度ものみこんだことがあります。

    お菓子以外にも、当時の流行や風俗も詳しく、
    「今となっては伝説の玩具「ママ・レンジ」が発売され、女の子たちをとりこにする」(1969年)、
    「「ママ・レンジ」をつかって小さなホットケーキを焼くことができた」、とある。
    『クレイマー、クレイマー』のフレンチトースト、りぼんのふろく、マクドナルドのハンバーガー
    (のピクルスのまずさ)などなど、いちいち書き留められないほどの懐かしさの質量。

    なかでも、いちばんハッとしたのは1984年、
    「三月、グリコ・森永事件が起こる。…………この事件以降、流通経路や店頭での異物毒物の混入
    をふせぐため、紙箱いりの菓子はフィルム包装されるようになった。」
    そうだった。
    あれから、いまに至るまでどれだけのフィルムをプラスチックごみとして廃棄してきたか。

    最後に、ふろくのように『賢治とお菓子』という題のつけられた文章が載っていて、宮澤賢治の
    作品中にあらわされたお菓子のかずかずが取り上げられています。
    「小麦粉とわづかの食塩とからつくられた
    イーハトヴ県のこの白く素朴なパンケーキのうまいことよ」(「朝餐」先駆形より)

    長野まゆみをもう一作。
    『レモンタルト』(講談社文庫、2012年)
    「私」は亡くなった姉の好物であったレモンタルトを彼岸参りに供えるつもりだったが、手に入れ
    そびれてしまい、その代わりに近くに洋菓子店でレモンケーキを買い求めることにする。
    「レモン風味の生地をレモンのかたちに焼いてレモンクリームで釉薬のようにくるみ、ひとつずつ
    レモンいろのうす紙につつんだケーキ」。
    これもまた、どこかで食べたことのある、懐かしいお菓子のひとつ。

    返信
    1. ヒマールじゅんこ 投稿作成者

      『お菓子手帖』、ここにあげてもらっただけでも、懐かしさでいっぱいに。
      菓子箱のフィルム包装、あー、始まりはそうでした……。

      レモンケーキ、ただいま店頭にありますよ(宣伝)。

      返信
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